政府のコロナ対策批判する文春、新潮はワクチン接種進み希望的報道

◆人流減り感染者減少

 東京五輪2020が行われていた8月前半。大会によって新型コロナウイルス感染が激増すると専門家は警告していた。週刊文春(8月26日号)で京都大学の古瀬祐気特定准教授は、「東京都では八月下旬から九月上旬に、一日一万人以上の新規感染者が出る可能性も、あると思っています」と言っていたほどだ。

 確かに、8月半ばに5000人を超えた東京都の感染者数は、その後、高い水準で推移していたものの、下旬になってからは予想に反して減り始め、現在いくつになっているかといえば3000人を切る。

 「8割おじさん」こと京都大学の西浦博教授は同誌の9月9日号で「数万は明らかに過大な評価でした」としつつも、「八月後半には一日の新規感染者数が数万人レベルになる可能性さえあった」と繰り返し、あくまでも五輪を実施したことへの批判は引っ込めていない。

 しかし、専門家たちの予想とは違い、感染者数が減っていった理由は政府や五輪組織委が言うように、五輪観戦で人々が表に出ず、テレビの前に座っていたからだ。そのことは数字が明確に示している。しかも、この間増えたのは感染力の強いデルタ株によるもので、もともと多かった東京都市圏を除けば、五輪会場と関係ない愛知、大阪、沖縄で、だった。

 ところが、西浦教授は別の理由を挙げる。「医療が逼迫し始めてからは報道を見て、国民の行動変容が起こり、人と人の接触も減った」からと言うのだ。それまで緊急事態宣言などどこ吹く風と受け流していた国民が「医療が逼迫した」のを見て出歩かなくなったという見解だ。

 「五輪観戦」にしろ、「医療逼迫で恐れをなした」にせよ、両方とも感染者数減少の理由は「人流」が減ったということは共通している。いずれにせよピークアウトしたことはいいことで、後はこれをどう維持し減らしていくかということになる。

◆具体的な対案出せず

 政府の専門家会議は「人流を減らせ」を繰り返しているが、西浦教授が挙げたのは「集会の禁止」である。「有志の専門家たちの間で七月前半から八月にかけて話し合われてきた対策」だという。「欧州各国で実効再生産数を下げるのに最も有効だった対策」だそうで、「五人以上の飲食の機会を制限するだけではなく、結婚式やお葬式、パーティーなども含まれる」のだと言う。

 政府がこれを採用しなかったのは、「『五輪は行っていいのか』という議論になりかねなかった」からだと説明するが、三密を避ける、ディスタンスを取る、飲食店等の時短、酒類の提供禁止など、政府はこれまで対策をしてきており、「集会の禁止」に限る意味がよく分からない。

 同誌は西浦教授を使って政府批判をしただけで、実際の有効な手段については具体的な対案を出せていない。ワクチン接種の進展と人流抑制、治療薬、これらを効果的に機能させることを提案した方がよかったのではないか。

◆早晩“ただの風邪”に

 菅義偉首相が3日、任期いっぱいで辞任する意向を明らかにした。自民党総裁選にも出馬せず「コロナ対策に専念する」としている。その言葉はウソではなさそうだ。8月25日の会見で首相は「明かりは見え始めている」としており、その根拠を週刊新潮(9月9日号)がまとめている。

 まず何といってもワクチンである。「11月には8割程度が接種を終えそうだ」として、「感染者数との兼ね合いにもなりますが、規制の緩和は検討されるでしょう」と、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授のコメントを載せている。

 さらに同教授は、「肝心なのは感染しても重症化しないこと。(略)11月ごろに新型コロナは“ただの風邪”に近くなるのではないか」と指摘している。前掲、文春の記事とはだいぶ見方が違う。この後、ワクチン、ウイルス防護術、子供の2学期問題などをQ&A形式でまとめていて分かりやすい。

 文春と新潮、コロナの捉え方が対照的で、どちらを好むかは読者次第である。

(岩崎 哲)