景気回復の鈍さに政府の感染・経済対策の不実を日経が厳しく批判

◆日本の現状に危機感

 2021年4~6月期の国内総生産(GDP)は、実質で前期比0・3%増、年率では1・3%増となった。

 西村康稔経済財政担当相は16日のGDP発表の記者会見で、「(コロナ禍にもかかわらず)想定より強い数字だ」と述べ、政府が目指している年内のコロナ前水準の回復は実現可能との認識を示した。

 これについて、翌17日付社説で日経と産経の2紙が論評を掲載。日経は、2四半期ぶりのプラスに転じたものの、景気回復の動きは鈍いと言わざるを得ないと評し、「新型コロナウイルス禍への政策対応が、スピード感や有効性を欠いているからではないのか」と政府の対応を厳しく批判。「感染症対策や経済対策の実をあげる努力を続ける必要がある」と訴えた。

 一方、産経は欧米などと比べて、「日本の景気回復はいかにも遅く、弱いことが心配だ。足元の感染拡大が経済をさらに下押しする懸念もある」として、「感染拡大や医療の逼迫(ひっぱく)を抑制するだけでなく、経済活動を再開する上でも有効」な、ワクチン接種を急ぐよう強く求めた。

 2紙とも、欧米と比べて回復が遅く勢いの乏しい日本の現状に危機感を抱き、政府に適切な対応を求める真摯さが伝わってくる。

 20年度政府予算はコロナ対策のため、当初予算と3度の補正予算を含めて175兆円に上ったが、30兆円超を執行できずに21年度に繰り越している。

 日経は「財政出動の規模だけをむやみに膨らませても、経済の再生はおぼつかない」とし、産経は「迅速かつ十分な支援が届いていないなら、これを改める効果的なコロナ対策を早急に講じるべきである」とした。同感である。

◆有事への備えに相違

 問題は、日経が求める「スピード感や有効性のあるコロナ禍への政策対応」や、産経の指摘する「効果的なコロナ対策」とは何か、という点である。

 特に日経は、「個人の貯蓄や企業の手元資金は潤沢でも、政府の感染症対策が貧弱なままでは消費や投資の活性化につながらない」と指摘し、「経済対策にも問題がある」と強調する。

 財政出動の規模ではそれほど見劣りしていないのに日本の成長率が低いからで、その理由を同紙は、コロナ禍で困窮する個人や企業の支援、グリーン化やデジタル化を軸とする成長戦略に欠かせない施策を厳選し、確実に実行できていないからだろう、とした。

 確かにそうした面もあるとは思うが、米欧との対比で決定的に異なるのは、同紙や産経も指摘するように、ワクチン接種の早さの違いであろう。また、ロックダウン(都市封鎖)のよう強力な強制的措置が法律的に取れるか取れないかということもあろう。有事への備えの相違である。

 こうした備えがあったら、緊急事態宣言の発令・延長と解除を繰り返す悪循環を何回も続けることもなく、経済活動の正常化がもっと早くに実現できたかもしれない。

◆2紙ともに妙案なし

 産経は、同紙が求める「効果的なコロナ対策」について、特に言及はない。あるのは、「接種が広く行き渡る前に、景気が息切れするような事態は避けなくてはならない」として、収益が大きく改善した企業に対して、新たな設備投資を検討するなど前向きな経営を目指してほしいと訴え、また感染力の強いデルタ株の蔓延(まんえん)により経済の先行きがさらに不透明になっている状況に、「官民ともにできることは全て行うべきときである」とした。

 日経も経済対策を何度も打ち出しても、弱者支援や成長戦略に不可欠なカネが行き渡らない。「そんな過ちを繰り返さず、巧みな政策で景気の回復を支えるべきだ」としたが、「巧みな政策」の中身には触れない。2紙ともに名案、妙案はないということか。

 18日付では、読売が先行き不透明感が強まる景気の下支えに実効性ある追加の対策の検討を求めた。

(床井明男)