猛威振るうデルタ株、ワクチン接種のスピードアップ訴える新潮・文春
◆体制整備怠ったツケ
新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を振るっている。入院できず自宅療養中に命を落とすという悲惨な事例をメディアはことさらに取り上げて危機感を煽(あお)っている。ここで疑問だ。去年から病床確保が言われていたのに、どうして足りない騒ぎをしているのか。重症患者の増加が予想を上回っているからなのか。そんな甘い予想をしていたのか。
週刊新潮(8月26日号)が「自分で命を守る『デルタ株』防衛術」の記事を出した。「ひとえに政府や専門家が、医療体制の整備をサボってきたツケだ」と断じ、政府を頼れないから自衛策を立てておけという。
同誌は指摘していないが、これには厚生労働省の責任が大きい。病床稼働率が下がれば診療報酬も下がる仕組みになっており、いきおい病院側は稼働率を上げようとする。つまり空きベッドをつくらないようにしてきたのだ。
ましてやコロナ病床を用意できる病院は少ないし、医療スタッフの確保もすぐにできるものではない。なのに、専門委員会の尾身茂会長はじめ政府はひたすら「人流」を抑えろとだけしか言わない。
同誌に戻る。尾身会長がワクチン接種に言及しないことも取り上げた。ワクチンにより感染が抑えられ重症化も防げるのに、「ワクチンを打っていようがいまいが、同様に行動を慎めというメッセージは、ワクチンに効果がないという誤解につながる」と同誌は指摘する。その通りだ。せっかくワクチンを打ったのに、未接種者と同じように行動制限されては、経済は回らない。
接種証明書やいわゆる「ワクチンパスポート」は「差別」につながるとして、日本は導入しないようだが、欧州ではレストラン、劇場、競技場などで証明書を提示すれば入れるようにし、経済を回している。「みんな一緒」の日本式とは違う。
◆変異株にも効果期待
やはりワクチン接種が肝だ。週刊文春(8月26日号)は「コロナ爆発徹底解明」の記事の中で、ファイザーやモデルナのワクチンが万全でないにしても、「変異株に対しても効果は十分期待できる」という東北大学の児玉栄一教授のコメントを載せている。
京都大学の古瀬祐気特定准教授は、「もし二〇一九年までの生活に戻りたいなら、ワクチン接種率が八割でも足りない」として、「ロックダウンのような法的に強い制限をかける政策も状況によっては必要になるかも」と追加の措置の必要性を説く。
しかし“お願い”ベースでは政府や行政の声を国民は聞かなくなっているのが現状だ。五輪期間中は「家でTV観戦」していたため人流は抑えられたが、これからはそうはいかない。ワクチン接種がさらにスピードアップされなければならない。特に感染・重症化率が高くなっている若年層への接種を急がなければならないだろう。
それにしても、繰り返すがこの“災害レベル”の感染爆発、医療逼迫(ひっぱく)は予測・対処ができなかったのだろうか。古瀬准教授は、急速な感染拡大は「デルタ株の影響です」と同誌に話す。「東京都では八月下旬から九月上旬に、一日一万人以上の新規感染者が出る可能性も、あると思っています」との見通しも示した。
◆重症化する未接種者
デルタ株はワクチンの効果を下げるという指摘がある。ニューズウィーク日本版(8月24日号)では「主要なワクチンの感染予防効果を約95%から約90%に低下させるようだ」としており、同じような指摘は他誌でも見掛ける。しかし、ワクチン接種がまったく無駄かというとそうではない。「アメリカではICUで治療される新型コロナウイルスの重症患者の99%はワクチン未接種者だ」というのだ。
名優・千葉真一さんがコロナ感染して肺炎で亡くなった。享年82歳。高齢者で早期にワクチン接種が可能だったはずだが、していなかったと報じられている。未接種の理由は不明。接種していれば…、との思いを禁じ得ない。冥福を祈る。
(岩崎 哲)