「核の戦狼外交」へ虎視眈々の中国へ警戒感乏しい「原爆の日」各紙社説

◆脇甘過ぎる朝毎東京

被爆76年目を迎える朝、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ祈りをささげる人たち=6日午前、広島市中区

被爆76年目を迎える朝、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ祈りをささげる人たち=6日午前、広島市中区

 広島は6日、76年目の「原爆の日」を迎えた。

 昭和20年8月6日午前8時15分、米国が対戦相手だった日本の広島市に世界で初めて原子爆弾「リトルボーイ」を実戦投下した。人類史上初の都市に対する核攻撃だった。

 6日の各紙社説は、いずれも「原爆の日」を取り上げた。

 核に対するスタンスは、朝毎東京の脇の甘さが顕著だ。

 安全保障を担保するというのはリアリズムの世界だ。地に足が着いていない空想的理想主義や観念先行だと、地域の安全保障そのものを奈落の底に陥れかねない。

 朝毎とも今年1月、50の国・地域で発効した核兵器禁止条約を取り上げた。同条約では核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁止することが盛り込まれている。ただ同条約には米露中英仏をはじめとした核保有国は一国も参加していないし、「核の傘」に守られている日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国なども批准していない。

 毎日は「核廃絶を国際的な規範とする核兵器禁止条約が発効した意義を改めて認識すべきだ」として未参加の日本に対し不満を表明。さらに「核軍縮に向けた外交努力を尽くすことが重要だ。条約はその出発点となりうる。日本も理念を共有する姿勢を打ち出す必要がある」と同条約への積極姿勢を求めた。

 なお日経は「中国の核戦力増強には歯止めがかからず、イランや北朝鮮の核開発も懸念材料だ」との現状認識はまともだが、「『核なき世界』は遠い。流れを変えるために日本がすべきことは、唯一の戦争被爆国として核兵器の恐ろしさを訴え続けることである」と落としどころを間違えている。国家が担っている責任は、恐ろしい核兵器から国民を守る安全保障の担保であって、主張することではない。

◆管理枠組み外の中国

 この点、本紙は「戦争は兵器が始めるのではなく、兵器を使う人間が始めるものだ。軍縮は国際平和の実現を目指す重要な施策ではあるが、兵器を廃絶するだけでは戦争がなくならないことを、また侵略、威嚇を阻止し得る力を持たない国が、如何(いか)に悲惨な結末を迎えることになるかを、これまでの歴史が物語っている」と総括した上で「(原爆の日を)冷厳な国際政治の現実を見詰め直す日としたい」と正論で締めくくっている。

 米露は年初、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で正式合意した。同条約失効間際の延長合意で、両国の核戦力の配備数や保有数の制限が継続される。

 2011年2月に発効した新STARTは、米露の戦略核弾頭の配備数を1550、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機などの核弾頭の運搬手段の総数を800に制限している。

 だが、条約の単純延長で、トランプ前米政権が求めようとした中国の核戦力を大国間の軍備管理の枠組みの中で縛るという試みは当面棚上げされ、インド太平洋地域での米中の軍事バランスをめぐる懸念解消も当面難しい趨勢(すうせい)にある。

 中国は新STARTや米露の中距離核戦力(INF)全廃条約(19年8月失効)に縛られることなく核戦力を増強させ、特に南シナ海など西太平洋に照準を合わせた短・中距離核配備を活発化させている。

 そのためトランプ前政権は、中国を加えた包括的な核軍縮の枠組み構築に動こうとしていた。

 東アジアの安全保障を考えるとき、米露だけでなく核戦力の新台頭国・中国を巻き込んだ軍備管理の枠組み構築が課題となるからだ。

◆核先制使用の解禁も

 バイデン米政権はトランプ前政権の対中認識は共有できても、中国の核問題に関してはまだスタンスを決めかねている。その未確定部分を中国に突かれた場合、西太平洋の安全保障がぐらりと揺らぐ可能性があるが大手五大紙はどこも言及していない。

 これまで中国は核兵器の先制使用を禁じてきたが、2年に1度出される国防白書で先制不使用の文字が消える日が近いと多くの軍事専門家はみている。この日こそは、これまでのバナナやパイナップルの輸入を止めたり、激しい言葉による戦狼(せんろう)外交から、国家のドスを抜いた「核の戦狼外交」へと豹変(ひょうへん)する日だ。

(池永達夫)