児童ポルノ法改正で“後進国”の実態浮き彫りにした「深層NEWS」
◆認識不足ある日本人
18歳未満のヌード写真などを規制する法律がなかったわが国で、「児童ポルノ禁止法」が施行したのは1999年11月だから、今年秋でちょうど15年になる。それ以前は子供のヌード写真集が一般の書店の棚に堂々と並ぶ異常な状況だった。議員立法での同法の成立を後押ししたのは、児童ポルノの取り締りの「後進国」との国際的な非難の高まりであって、残念ながらこの問題に対する国内の認識は低いのである。
筆者は1990年代の前半を特派員として米国の首都ワシントンで過ごしたが、子供を性欲の対象とすることに極めて厳しい米国社会で生活して帰国した当初、日本における児童ポルノの氾濫にあきれて「この状況を米国人が知ったら、日本は経済的には先進国かもしれないが、性の問題においては“後進国”と思うのは当たり前だ」と憤慨したものだった。
それは15年以上も前の話だが、では児童ポルノ禁止法の施行によって「後進国」の汚名を返上できたのか、と言えば、いまだに「後進国」と言われ続けていることは児童ポルノをなくそうと努力している人なら、誰もが知っている。児童ポルノの規制を一層強化している国際社会の基準からすれば、同法はあまりに甘いからだ。
今月11日夜放送のBS日テレの時事番組「深層NEWS」は「子供を守るには…児童ポルノ禁止法」をテーマに、同法の改正案の賛成派と反対派の国会議員を招いて放送した。ここで紹介されたのは、児童ポルノの検挙件数が過去10年間で減るどころか、急増している実態である。
2003の検挙件数は215件だったが、12年には1596件と約8倍になっている。しかも、問題の性質上、表に出てこない被害がどれくらいあるのか分からない。状況は深刻化しているのは間違いない。その背景にはインターネットの普及と、この問題に対する日本人の認識不足がある。
番組に出演した自民党衆院議員の平沢勝栄氏によると、警察が検挙した7割から8割は強姦、強制わいせつなど「ほかの刑法に触れる形で子供の写真を強制的に撮らせて頒布している」という。だから、被害者はその写真が誰かが「持っている」あるいは「見ている」というだけで心に深い傷を負い、人生を歩むのが難しくなってしまうのだ。
◆「冤罪」反対理由は変
このため、児童ポルノをただ所持すること、つまり「単純所持」さえ禁じるのが国際的な潮流になっている。しかし、わが国の同法は製造や販売、あるいは誰かに提供する目的で所持することは禁じるが、個人的に趣味で所持することは認めている。これがいまだにわが国が児童ポルノの取り締まりにおける「後進国」と言われる大きな理由である。
そこで昨年5月、自民党、公明党、日本維新の会の3党は単純所持を禁止し、処罰するための同法改正案を衆院に共同提出したが、継続審議になったままになっている。強固な反対勢力があるからだ。
その一人、みんなの党参院議員の山田太郎氏は番組で、改正案に反対する理由を次のように述べた。「この問題を注意しないといけないのは、冤罪(えんざい)の可能性。それによる自主規制という問題も合わせて考える必要がある」。
「冤罪の可能性」には説明が必要だろう。単純所持を禁止した場合、例えば誰かが児童ポルノをメールで送りつけ、それを知らずに放置した人間は逮捕されてしまうというのである。しかし、日本の警察がいくらヒマだからと言って、そんなことで捜査を行うことは考えられない。もしそんな事態が発生したら、法律そのものが“欠陥法”として批判されるから、「300%ありえない」(平沢氏)。
◆自主規制反対に極論
自主規制の問題も同じことが言える。山田氏は児童ポルノの概念が曖昧なために、ネット上ではランドセルを背負った女の子も自主規制の対象になっていると、極端な例を挙げた。しかし、いったいどこの誰がランドセルを背負った女の子の写真を児童ポルノだと認定するのか、まったく理解不能である。
これでは、平沢氏が嘆いたように、反対のための詭弁(きべん)にすぎない、と言われても仕方がないだろう。もし、この番組を海外の人が見たら「日本はやっぱり後進国だ」と、呆れ返ったに違いない。
(森田清策)