サイバー攻撃巧妙化でデジタル社会の基盤が蝕まれていると米紙警鐘

◆露が国家的な関与か

 大規模なサイバー攻撃、サイバースパイの報道が続いている。イスラエルのIT企業、NSOグループのスパイウエア「ペガサス」が悪用され、国家元首、反体制派ジャーナリスト・活動家の通信が傍受されていたことが明らかになったばかりだ。米紙ポリティコは、近年の国家の関与が疑われるサイバー攻撃によってデジタル化が進んだ社会、経済の基盤そのものが揺らいでいると警鐘を鳴らす。

 昨年12月、米サイバーセキュリティー企業「ソーラーウィンズ」がサイバー攻撃を受け、同社の製品を導入している企業が被害に遭ったことが明らかになった。米CNNによると、「少なくとも9連邦政府機関が標的となり、…少なくとも100社が被害を受けた」。米情報機関は、「攻撃はロシア発」と結論付け、ロシアの国家的関与が疑われている。

 5月には、米コロニアル・パイプライン、食肉加工大手JBSがランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受けた。米東部では油送が一時停止し、1週間にわたって燃料供給が滞るなど、インフラの脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。政府監査院(GAO)はブログで、重要インフラの保護へ「連邦政府と民間企業での備えが必要」と訴えた。これも、ロシアのハッカーによる犯行とされている。

 さらに今月に入って、マイクロソフトの電子メールサーバーを狙った大規模なサイバー攻撃が発生した。米ITニュースサイト「テッククランチ」によると、「米国内の数万の組織から電子メール、メールアドレスが盗み出された」。中国の情報機関、国家安全部が関与しているとみられ、米連邦捜査局(FBI)が捜査に乗り出している。

◆独裁支配強化に利用

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは18日、「NSOグループのスパイウエアを使って、世界中で大規模な人権侵害が行われていた」と指摘、「5万件の電話番号が流出し、その中には国家元首、活動家、ジャーナリストらが含まれていた」ことを明らかにした。トルコで殺害されたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の家族も含まれていたという。

 米ブルームバーグ通信によると、このスパイウエアは本来、「欧米諸国政府が、テロリスト、犯罪組織の情報を収集するのを支援する」ために作られたもの。しかし、アムネスティは「サウジなど全体主義的国家が、反政府活動家やジャーナリストに対してペガサスを使用していた」と指摘している。

 米紙ニューヨーク・タイムズが2018年12月2日に報じたところによると、カショギ氏に近いサウジ反政府活動家が、「(サウジが)カショギ氏のスマートフォンに侵入し、通信を傍受するのを支援した」としてNSOグループを提訴している。カショギ氏は、米国を拠点に米紙ワシントン・ポストなどでサウジの体制批判を続けていたことから、スパイウエアの情報を基に、ムハンマド皇太子が殺害を指示したとみられている。

 ポリティコは、「この10年間、全体主義的国家の政府は、デジタルツールを活用し、汚れ仕事を、謎に包まれたサイバー犯罪組織に任せてきた」と、サイバー空間が、独裁支配の強化に利用されている現状を指摘している。さらに「新型コロナウイルスの大流行によって世界でインターネットへの依存が強まり、資金、影響力を獲得したい人々の標的が急増した」と、サイバー犯罪が起きやすい環境が整っていると強調した。

◆国際的な合意に期待

 同紙は、「シロアリがはびこるように、拡大するデジタル社会の基盤そのものが蝕(むしば)まれている」と指摘する。社会・経済インフラなど、生活に直結するあらゆるものがデジタル化され、インターネットに接続されている現代で、サイバー攻撃の不安を抱えることは、社会と経済の不安定化に直結する。

 一方で同紙は、サイバー攻撃の巧妙化、大規模化を受けて「待ち望まれていたサイバー空間の適切な利用のための国際的合意がいずれ交わされるのではないか」と期待を表明している。

(本田隆文)