大幅な最低賃金引き上げに政府へ生産性向上などの注文付けた日経
◆中小企業の経営圧迫
2021年度の最低賃金(時給)が、目安の全国平均で前年度比28円引き上げ、930円とすることで決着した。引き上げ率は3・1%。20年度は新型コロナ禍を考慮して1円増の902円と事実上据え置きとなったが、21年度は16~19年度と同水準に回復した。「より早期に時給1000円」への引き上げを目指す菅義偉政権の意向を反映する格好になった。
最低賃金決着について、社説で論評を掲載したのは5紙。各紙の見出しは次の通りである。15日付日経「生産性を上げねば最低賃金上げも続かぬ」、16日付朝日「政府も役割を果たせ」、東京「コロナ禍にこそ増額を」、18日付読売「雇用維持との両立が前提だ」、19日付産経「中小企業の底上げも促せ」――。
ワクチン接種が進み、昨年と状況が異なってきたとはいえ、コロナ感染の収束が依然見えず、飲食業や宿泊業などで厳しい状況が続いていることを考えれば、東京のように「コロナ禍にこそ増額を」などと簡単には言えまい。5紙の中では、掲載の一番早かった日経が的を射た論調を展開し、的確かつ細やかな対応策を示すなど、さすが経済紙と感じさせた。
賃上げは他紙が言うように、個人消費の活性化を通じて経済の好循環につながるが、日経は「急激な引き上げは中小企業の経営を圧迫する」と指摘し、「今後も企業の負担が増え続ければ、雇用減など地域経済への悪影響が広がりかねない」と懸念を示す。
日経は「重要なのは生産性の改善と最低賃金の上昇が歩調を合わせて進むことだ」として、「中小企業の生産性向上の支援が欠かせない」「企業自身の努力で収益力を高める必要があるが、その後押しは政府の役割だ」と強調した。政府が賃上げを積極的にリードする以上、尤(もっと)もな主張である。
◆制度の見直し検討を
そのために同紙は、成長分野への企業の参入を阻む規制の撤廃や、デジタル分野の職業訓練の拡充など従業員の能力開発支援を強力に進めるべきだなど、具体的な対応策も提示。また、その際、「助成金による支援は基本的に当座しのぎにすぎない」として、デジタル機器の導入支援など必要なものに絞り、「多用すべきではない」と基本的な姿勢も説く。
同紙はさらに、「地域経済への影響を抑えながら最低賃金を無理なく継続的に引き上げていくための工夫も欠かせない」として、英国では若年層を18~20歳、16~17歳などに分け、年齢が下がるにしたがって最低賃金を減額するといった例を挙げて、「日本もこうしたメリハリのある決め方を参考に、最低賃金制度の見直しを検討すべきだ」と訴えるが、これまた同感である。
政府の役割については、見出しのように、朝日も説いた。
政府はコロナ禍で打撃を受けた事業者への支援強化や、賃上げをした事業者への補助金拡充などを打ち出しているが、「中小・零細企業が継続的に賃金を払える体力をつけなければ、本質的な解決にはならない」として、日経同様、付加価値の高いサービスやものづくりを後押しし、生産性を向上させる取り組みが欠かせないとした。
産経も、中小企業の収益改善が見込めないまま最低賃金の引き上げを続ければ、人員削減などでかえって働く場が失われる恐れがあり、「それでは本末転倒だ」として、生産性向上へデジタル化などの支援検討を求めた。
◆手続き簡素化求める
もっとも、中小へのこうした支援策は、口で言うほど容易ではない。中小が多い飲食・宿泊業で依然としてコロナ禍による苦境が続いている状況では、なおのことである。
読売は、賃上げと同時に設備投資を行った中小への政府補助について、手続きが煩雑で利用も低調として、書類を減らして使い勝手をよくすることや補助額の引き上げを求めたが、日経が説いたように、最低賃金制度そのものの見直しが必要になっているようである。
(床井明男)