アマチュア探偵らが追及の「武漢研究所流出説」を詳述したNW日本版

◆論文の中に証拠発見

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、中国の武漢ウイルス研究所からウイルスが流出して引き起こされた―その状況証拠が次々と明るみに出ている。ニューズウィーク日本版6月22日号では「素人集団が暴き出した武漢ウイルス研究所の嘘」と題し、民間人らが手掛けた証拠発掘の作業をルポしている。

 集団の名称は「DRASTIC(新型コロナウイルス感染症に関する分散型の先鋭匿名調査チーム)」。メンバーの一人「シーカー(探索者)」と名乗る20代後半のインド人男性が最初に目を付けたのは、武漢研究所の研究者、石正麗が昨年2月科学誌ネイチャーに投稿した論文に記した「RaTG13」(コウモリコロナウイルス)の存在だ。「新型コロナと遺伝子レベルが似ているウイルス」で「中国南部・雲南省に生息するコウモリから以前に検出」とする説明に疑念を持ったシーカーは仲間たちと追及の輪を広げていった。

 石正麗の他の論文に含まれる情報を、複数の報道内容と結び付け「RaTG13は雲南省の墨江ハニ族自治県にある鉱山の坑道で発見されたウイルス」であることを見つけた。ここは2012年に、コウモリのふんを除去していた鉱山労働者6人が肺炎を発症し、うち3人が死亡した地だ。「ヒトが新型コロナウイルスの始祖ウイルス(おそらくRaTG13かその類似ウイルス)に感染した初の症例だったのではないか」と推断したが、まだ直感にすぎず証明する手だてはなかった。

◆徹夜でパソコン検索

 シーカーの本領発揮はここから。「ベッド横のテーブルにチャイ(筆者注・インド式のミルクティー)を用意し、携帯電話とノートパソコンで夜を徹して検索を続けた」。「宝物に当たったのは、諦めかけた時」で、昆明医科大学の大学院生が13年に提出した修士論文「未知のウイルスによる6人の重症肺炎患者の分析」を発見。当の鉱山労働者の患者について「コウモリ由来のSARSのような(症状を引き起こすコロナウイルス)」の仕業と明記されていた。

 「シーカーは淡々と、論文のタイトルとリンクをツイッターに投稿」。その後見つけた中国疾病対策予防センターの博士研究員の論文で「鉱山労働者のうち4人はSARSウイルスに似たウイルスの抗体検査で陽性だったことや、これらの検査結果は全て、武漢研究所に報告されていたこと」が明らかに。だがシーカーが二つの論文のリンクを貼った直後に中国はCNKI(中国学術文献オンラインサービス)のアクセス管理を変更し、調査はできなくなった。

 さらにDRASTICのメンバーのリベラは「武漢研究所は銅鉱山でRaTG13を発見してから7年の間に、このウイルスをいろいろ操作したのではないか」という疑いを抱いた。リベラは、ウイルスの遺伝子に関する新論文の執筆者は国際データベースにその配列を入力することになっていることを知って、「武漢研究所のスタッフがRaTG13の遺伝子配列とひも付けてうっかり入力したものがないか」詳細に調べ、それを突き止めた。「17年と18年に、武漢研究所が熱心にRaTG13を研究していた」のだ。

 一方、シーカーは同研究所の助成金申請記録の中に、研究計画の詳細な記述を発見。「複数の異なるウイルスの一部を再結合させたりする(中略)いずれのプロジェクトも、ひどくずさんな安全基準の下で行われていた。大惨事を引き起こす全ての材料がそろっていた」ことが分かったのだった。

 論理空間で次々と証拠を摘出するすこぶる興味深い内容だ。大国に単身乗り込み、為政者らをきりきり舞いさせるスパイ小説は少々時代遅れになるかもしれない。

◆情報開示圧力かけろ

 中国政府は先般、広東省の台山原子力発電所の燃料棒損傷を公表した。だがこれは同原発の運営に関わったフランス企業からの連絡で、米CNNテレビなどが報道したため、しぶしぶだろう。コロナ流出疑惑でもDRASTICのような集団が世界中で声を上げることで隠蔽(いんぺい)国家を揺さぶりたい。

(片上晴彦)