「戦略は失敗した」として米軍のアフガン撤収に警鐘を鳴らす各紙

◆サイゴン陥落を再現

 米軍のアフガニスタン撤収が急ピッチで進められている。撤収後、米国の支援を受けるアフガン政府に対するタリバンの攻勢が強まるのは間違いなく、各紙は米国の無策ぶりへの非難一色だ。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6月24日、アフガン撤収について「アフガンで悲劇が起きる」「撤収による流血はバイデンとトランプの責任」と指摘、「外交、経済、人道での支援」を約束していることについて、「慰めにならない慰め」と悲観的な見方を示した。

 ワシントン・ポスト紙も、「アフガン撤収はタリバン支配への第一歩」と指摘した上で、1970年代の米軍ベトナム撤収になぞらえて警鐘を鳴らす。「ニクソン大統領は73年に北ベトナムとの一方的な和平合意を交わし、南ベトナムから全米軍を撤収させた。…ハノイ政府はすぐに、合意を破り始め、北の攻勢の中、結果的に75年にサイゴンは陥落した」と指摘した上で、バイデン氏が計画通り撤収を進めれば、「アフガンの人々は、米国が捨てた南ベトナムの人々と同じ運命」をたどり、「カブール陥落は、サイゴン陥落と同様、悲惨なものとなり得る」と訴えた。

◆タリバン政権復活も

 一方、アフガンの隣国パキスタンの老舗英語紙ドーンは、「米国人はアフガンを理解できず、いい結果を残せなかった」「戦略は失敗した」と指摘、「タリバンの(首都)カブール支配へのカウントダウンが始まったようだ」と、90年代のタリバン政権の復活を予測する。

 タリバン政権下では、人権侵害が横行し、女性の教育、就業が禁止された。米国のアフガン侵攻は、2001年9月の同時多発テロ後、首謀者のウサマ・ビンラディンをタリバンがかくまっていたためだ。パキスタンはタリバンを支援しており、米国の「テロとの戦い」の中で殺害されたビンラディンが隠れていたのは、パキスタン北部のアボタバードだ。タリバンの復活によって、アフガンが再びテロの温床となる可能性も十分予測される。

 ドーン紙はさらに、「アフガンでは、力でカブールを掌握したものが権力を握ってきた」と指摘する。1973年に国王ザヒル・シャーが退位させられて以降、「交渉による権力の移行は行われておらず、…タリバンが『この伝統』から決別することを期待するのは非現実的だ」と訴えている。

 同時テロを実行した国際テロ組織アルカイダの出現自体も「アフガンでの米国の失敗」が一因だった。

 冷戦の最中、ソ連が79年に侵攻、米国はソ連に対抗するために、反政府ゲリラ組織「ムジャヒディン」を組織し、支援した。「パキスタンとサウジアラビアがこの計画に参画した。その中で、残念なことに、ウサマ・ビンラディンが出現、国際的『聖戦』思想が定着した。世界は今、この実験のつけを払っている」とドーン紙は指摘している。その後タリバンのアフガン支配を可能にしたのは、「米国がアフガンへの興味を失った」からだ。

 「国際社会は関与を強め、基本的な人権が尊重され、過激組織の隠れ家とならないことを保証すべきだ」とドーン紙は訴える。バイデン米大統領は6月25日のアフガンのガニ大統領との会談後、経済支援など、撤収後もアフガンに関与していくことを表明するとともに「アフガンの未来はアフガン人が決める」と表明している。

◆国際的支援なお必要

 米政府は、通訳などアフガン人協力者への報復を恐れ、約5万人の受け入れを目指している。これ自体、タリバン支配の復活を認めたようなものだ。ビザ発給が間に合わず、いったん国外に移動させる意向であり、そのバタバタぶりは目を疑うほどだ。

 アフガンの自立へ、米国など国際社会からの支援が依然、必要なことは明らかだ。それができなければ「新たな安全保障上の悪夢が、パキスタン、世界を覆うことになるのは間違いない」(ドーン紙)。

(本田隆文)