都知事選に脱原発のシングルイシュー迫った朝日、毎日の肩すかし
◆選挙中に「原発」連載
東京都知事選で脱原発派候補が敗北した。とりわけ細川護熙(もりひろ)、小泉純一郎両氏の元総理コンビによるシングルイシュー(単一争点)化は都民から拒絶された。細川氏は次点どころか3位に終わった。朝日と毎日の脱原発キャンペーンも空しく散った。
両紙は細川氏が立候補を表明すると、「首都で原発を問う意義」(朝日1月15日付社説)「原発も大きな争点だ」(同・毎日)と脱原発を都知事選の一大争点に据え、それ以降、脱原発キャンペーンを張り続けてきた。細川氏への肩入れは尋常ではなかった。
例えば、都知事選が23日に告示されると、朝日は同日付夕刊1面で「国の針路 首都で問う 原発や五輪・福祉、争点」と原発を真っ先に挙げ、社会面では「原発論議 東京から」と単一争点化を紙面で演じた。
毎日はもっと露骨で、同夕刊1面は「脱原発軸に論戦」とストレートに脱原発を掲げ、2面の「特集ワイド」では小泉氏を取り上げ、「脱原発の国民投票」の見出しを躍らせた。翌24日付夕刊の「特集ワイド」では「福島県民に聞く 都知事選と脱原発論争」と福島県まで持ち出して煽(あお)った。
さらに選挙期間中、原発ネガティブ・キャンペーンも張った。朝日は「原発利権を追う」のシリーズを組み、「甘利経済再生相のパーティー券 電力9社 覆面購入」(27日付)、「発送電分離 経産省と暗闘」(28日付)、「立地自治体・裏社会にカネ」(29日付)と覆面、暗闘、カネといった悪印象を与える文字を連発し、31日付1面トップでは「原発新増設 自民に促す」と電力業界が不正を働きかけているかのように報じた。
一方、毎日は「首都と原発」(2~4日付)を組み、プルトニウム問題や「原発マネー」などを取り上げ「電力の大消費地である東京の選択は重い意味を持つ」と、脱原発を側面から援護した。
◆最大争点に浮上せず
だが、脱原発は選挙戦の序盤から、さっぱり盛り上がらなかった。毎日25日付の世論調査では、「最大の争点」は「少子高齢化や福祉」が26・8%でトップ、「景気と雇用」が23%で続き、「原発・エネルギー問題」は18・5%にとどまった。
朝日27日付の世論調査でも、「景気や雇用」29%、「医療や福祉」25%が多く、「原発やエネルギー」は14%と大きく引き離された。「原発を争点にするのは妥当か」との問いには「妥当」は41%で、「妥当でない」の48%を下回った。両紙とも序盤情勢は「舛添氏優勢」で、脱原発キャンペーンは功を奏さなかった。
さらに毎日3日付の終盤情勢では「原発が争点」が前回調査よりも3・8ポイントも減って14・7%に凋落(ちょうらく)。朝日4日付の世論調査でも「景気・雇用」の30%に対して、原発政策重視は14%と低迷。朝日の4日付社説「東京の争点 それでも違いは探せる」は、この世論調査結果を紹介し「単一争点の選挙にしたくない、と多くの有権者が考えているのだろう」と敗北宣言の体だった。
それでも6日に山口県知事選が告示されると、「原発 足元の県で問う」「地方選で国政の課題 識者『争点、住民の選択』」(6日付)と、原発争点化を再び図った。毎日は5日付に「焦り迷う 脱原発派 浸透せず劣勢 なお候補統一探る」と伝え、脱原発派の一本化に関心を寄せた。
だが、選挙結果は一本化しても舛添氏の211万票に及ばなかった。とりわけ細川氏は宇都宮氏の後塵(こうじん)を拝し、朝日と毎日の影響力の低さを改めて見せ付けた格好だ。それにもかかわらず、朝日と毎日の悪あがきが続いている。
◆朝毎に付ける薬なし
10日付社説をみると、朝日は「いずれ原発頼みから卒業しなければという考え方は、選挙戦を通じて都民に広く共有されただろう」、毎日は「原発政策が争点の一つとなった都知事選では、核のゴミ処分で大都市が負うべき責任や廃炉に直面する立地自治体の振興策なども論点となった」といずれも有りもしない幻想にしがみついている。
朝日の「天声人語」に至っては「(総選挙や参院選で)生煮えだった難題を、有権者が改めて考える機会になった。この『文明史的』な問いから私たちは逃れることはできない」と一人で高揚している。
どうやら朝日と毎日に付ける薬はなさそうだ。
(増 記代司)