日中冷戦の現状と本質捉えた洞察と丁寧な分析の読売「政治の現場」
◆共産主義の政治宣伝
日本と中国の関係は、尖閣諸島をめぐる中国の言いがかりに日本が屈しないことなどから、今や“冷戦状態”に入っていると見ていい。日本は、何が何でも日本を貶(おとし)めようとする悪意に満ちた中国の覇権攻勢にさらされている。
そんな中で、民意により選んだ時の首相が安倍晋三氏で本当によかったと思うのは、こうした時の政府こそ冷静かつ毅然(きぜん)と正道を貫き、中国のさまざまな理不尽な圧力に決して怯(ひる)むことなく粘り強い強(したた)かな対応が求められるからだ。靖国神社参拝後も安倍政権の支持率が高い水準を維持しているのは、今の危機の日本にふさわしいのが安倍首相だと国民が直感しているからに他ならない。
日中関係が“冷戦状態”だと認識すれば、中国からのわが国に向けられた批判は共産党独裁国家の体質を含むものであり、基本的には正当性を持つ批判ではなく、プロパガンダ(政治宣伝)であると踏まえるべきだ。国際会議などでの常軌を逸した反日主張や振る舞いも、今やそうした観点から捉える必要が出てきた。
メディアはプロパガンダも正当性ある批判も無分別に、下手な鉄砲を数打つようにタレ流すのではなく、とりわけ鋭敏な眼で分析し洞察した、責任ある報道と論調の展開が求められるのである。
◆ヒトラー政治どちら
だが、そうした認識を持った言論はまだ少ないが、その一つに小紙社説(8日付)「反日宣伝/ヒトラー政治行うのは中国だ」を挙げたい。仲間褒めだとの批判を恐れずに言うと、中国の反日プロパガンダによるデマゴーグを鋭角的に斬り込んで暴いた主張は秀逸であり、論説者に敬意を表したいほどだ。
中国(高官)は先月、ダボス(スイス)で開かれた世界経済フォーラム年次総会最終日に「第2次世界大戦では、日本はアジアのナチスだった。武力紛争が起こるかどうかは、すべて日本次第だ」と言い放ち、ナチスの汚名を日本に被(かぶ)せた。これに前後した時期に各国駐在の中国大使も、現地の有力紙などで同様の反日プロパガンダを繰り広げた。
小紙はこうした中国について「一方的に防空識別圏を設定するなど、東アジアでの緊張をつくり出す自国の責任を、歴史問題に絡めて転嫁する厚顔無恥な姿勢」だと批判。これまでの事なかれ主義を捨て、日本政府が逐一反論する対応に出たことに言及して、これを支持した。
さらに南シナ海の領有権で中国の強圧に苦しめられているフィリピンのアキノ大統領が、第2次世界大戦前夜にズデーテン地方(当時のチェコスロバキア)を併合したヒトラーと重ね合わせた中国の領土拡張主義批判をニューヨーク・タイムズ紙で行ったことに加え、中国のチベット、ウイグル両民族に行っている“緩慢な民族浄化”はヒトラーがユダヤ人に対して進めたことと変わらないことを指摘。「(中国は)歴史の教訓に学ぶどころか、ヒトラーの最も忌まわしい政策を現在進行形で行っている」と強調し、日本へのナチス呼ばわりに“中国こそヒトラー政治”だとボールを投げ返したのである。
◆機関紙報道だと指摘
もう一つ、中国の主張はプロパガンダだとの認識から日中関係を冷静に分析し、現状を丁寧に解説した連載が、読売がその時々の時事テーマを断続的に短期連載する「政治の現場」で、今月4日からスタートしている(12日現在で連載8回目)。今回のテーマはタイトルが示す通りの「日中冷戦」。「歴史問題を反日プロパガンダ(政治宣伝)に最大限利用して攻勢をかける中国との関係は、いまや『冷戦』と表現するにふさわしい」と解説する。
連載の第1回は第1面と4面にかけて展開。前述のダボス会議での中国高官の「日本=ナチス」のレッテル貼り現場のリポートから始まった。「『日本=ナチス』発言が出た討論会でも、姜氏(中国高官)が続けて『中国は平和を愛する国だ。我々は他国に侵略したことはない。どの国も脅したことはない』と発言すると、会場から思わず失笑が漏れた」と、海外の英知は中国の嘘を見通していることに言及。それでも「激烈な『歴史』プロパガンダを侮るわけにはいかない」「中国から仕掛けられた世論戦にしっかり反撃すること」が日本の大きな外交課題だと戒める。
連載は中国の報道は機関紙報道である実態(第2回)、尖閣諸島問題で始まった対立が靖国参拝原因にすり替えられたトリックの検証(第4回)など、日中冷戦の現状と課題をその全体像から、本質をよく捉えた洞察と詳細な分析で展開しているのである。
(堀本和博)