内戦下のイエメンで戦略的支配の強化をもくろむサウジとUAE

◆情報収集の拠点築く

 中東イエメンで、暫定政府とイスラム教シーア派の武装組織フーシ派の衝突が続く中、アラブ首長国連邦(UAE)とイスラエルの水面下での活動が伝えられている。

 イランのファルス通信は、シーア派が8日、イスラエルの対外情報機関モサドの工作員を拘束しており、イエメンでのイスラエルのスパイ活動に関する資料を公開すると報じた。フーシ派のスポークスマンは「イエメンでのイスラエルの活動の一部、イエメンを軍事的に標的とする計画などの秘密が初めて明らかにされる」と述べている。

 イスラエル紙エルサレム・ポストによると、フーシ派は「(イスラム教の聖地がある)エルサレムの保護」を訴え、紅海を航行するイスラエルの船舶をロケット砲と無人機で攻撃すると表明するなど、イスラエルへの対決姿勢を強めている。その中でも、フーシ派が反発を強めているのは、イスラエルの旅行者らが、UAE経由で、イエメン領のソコトラ島を訪れていると報じられたことだという。

 ソコトラ島は、イエメンとソマリアの間のアデン湾の入り口にあり、インド洋と地中海の間の航路をにらむ戦略的要衝。イエメン領であり、フーシ派と対立する暫定政権側が支配しているものの、暫定政権を支援するUAEが、事実上支配しているとみられている。イランのファルス通信は、UAEとイスラエルはソコトラ島に情報収集の拠点を築こうとしていると指摘している。

◆空軍基地建設の報道

 エルサレム・ポストによると、紅海の入り口に位置するイエメン領のマユン島をめぐっても、これまでに同様の報道がなされており、UAEが島に空軍基地の建設をしているとの報道がなされている。

 両島ともスエズ運河につながる海上の隘路(あいろ)にあり、経済面でも、戦略的にも重要な場所だ。

 トルコのアナドル通信によると、イエメン情報相の高官が最近、UAEはソコトラ島に軍人を派遣し、「さまざまな国籍」の観光客を訪問させている。マユン島の空軍基地は、英紙ガーディアンなども報じており、UAEが建設の背後にいるとの見方が支配的だ。

 英ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの中東担当記者ジェレミー・バーニー氏は、この基地について、UAEの長期戦略の一環との見方を示している。

◆パイプライン敷設も

 一方、米シンクタンク、ブルッキングス研究所の上級研究員ブルース・リーデル氏は5月28日、「サウジアラビアとUAEがイエメン東部と島嶼(とうしょ)部で戦略的拠点を強化している」と指摘した。サウジとUAEは、イエメン内戦に介入し、フーシ派と戦闘を繰り広げてきた。米国からの支援の中止もあり、内戦への関与は後退しているが、「(イエメンの)戦略的拠点を手放すことはない」と指摘している。

 リーデル氏によると、サウジは、暫定政府が支配する同国東部、オマーン国境に近いマフラ地区にアラビア海に直接抜けるパイプラインの敷設をもくろんでいるという。完成すれば、ペルシャ湾の入り口、ホルムズ海峡の情勢に左右されることなく、原油を輸出できるようになる。

 一方のUAEは、戦闘から手を引く一方で、マユン、ソコトラの支配をもくろんでいるという。

 リーデル氏によると、イスラエル観光客のソコトラ島訪問は、イスラエルとUAE間の「アブラハム合意」の一環と指摘する。数千人がUAEのドバイやアブダビを訪れており、その一部が、ソコトラ島にまで足を延ばしている。イエメン暫定政府側は、UAEの一方的な行動に反発しているが、UAE側からは無視されている。

 リーデル氏は、「米国はイエメンの分断に関与すべきでない」とするとともに、「サウジとUAEは、マフラ、マユン、ソコトラから撤収し、イエメンに返すべきだ」と訴えているものの、今のところ両国にその気はないようだ。

(本田隆文)