国の半導体戦略に朝日は経済合理性、読売は経済安全保障を強調

◆台湾集中にはリスク

 国が国内半導体産業の競争力強化に向け動きだしている。経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を策定、また首相官邸(内閣官房)も成長戦略実行計画案をまとめ、その中で先端半導体技術の開発・製造立地推進を掲げた。

 新聞ではこれまでに朝日、読売、東京、本紙の4紙が半導体戦略について社説を掲載。論調としては、朝日が経済合理性を強調したのに対し、読売は経済安全保障を重視するなど大きな違いを見せた。

 朝日5日付は、経産省の戦略について、「柱は、デジタル機器の頭脳にあたるロジック半導体のてこ入れである」とし、台湾積体電路製造(TSMC)など半導体生産世界大手の開発拠点を国内に誘致、さらに、量産工場の新設を目指すものとした。

 朝日は、「台湾に生産が集中するリスクへの対応も重要な課題である。半導体をめぐる戦略や適切な産業支援の必要性自体は理解できる」としながらも、ただ、「国産半導体産業復活」といった国民感情や、台湾有事への危機意識に訴える議論が先行し、経済合理性の検討がおろそかになっては困る、とした。

 専門家の多くが日本のロジック半導体の生産技術の遅れはもはや挽回不能と見ていること、また、米国にはインテルがTSMCの工場誘致に成功しており、同一分野の補助金で生産能力が過剰になれば共倒れになりかねないからということで、同紙は経済安全保障を強化するにしても、緊密な関係にある国・地域の強みを生かし、適切に生産を分担する発想が求められる、と強調するのである。

 確かに一理あり、そう行動できれば一番いいが、理想論に近い。また、軍拡を続ける中国と台湾有事の緊迫度を同紙はどうみているのか。

◆政府の投資が不可欠

 これに対して、読売は8日付で、「国家事業として体制立て直せ」との見出しで、経済安全保障の観点から、国内の生産基盤を整えていかねばならないと訴えた。

 読売の論評は、首相官邸の成長戦略実行計画案での内容を踏まえたもので、経産省の戦略と大意は同じである。

 読売の訴えの根底にあるのは、日本の半導体産業の現状である。日本のメーカーは1980年代後半は、世界で約5割のシェア(占有率)を誇ったが、2019年は約1割にまで低下してしまった。

 NECや東芝などの日本勢は、日米半導体摩擦で競争力をそがれ、バブル崩壊後は不況で思い切った投資を行う力を失い、官民で巨額を投じた台湾、韓国などの企業に後れを取った――。

 こう記して、同紙は「政府は、今回の成功戦略を機に過去の失敗を丹念に分析し、体制を立て直すべきだ」と強調する。そして、米欧が5兆円超、中国は10兆円を上回る資金拠出を表明している状況に、「日本政府も、国際的な戦略物資となった半導体の役割の大きさを国民に説明し、効果的な投資を進めてほしい」と呼び掛けた。同感である。

 現在、国内にはスマートフォンなどに使う先端半導体を作れる工場はないが、半導体を生産するための素材や製造装置では世界トップ級の企業が多い。同紙は、これらの企業が台湾や米国など海外企業と連携し、共同で開発・生産に当たることが現実的だと指摘。また、政府が5月下旬に、TSMCが日本企業と共同で茨城県に設ける研究開発拠点に対し、約190億円の補助金を出すことを決めたことに、「こうした支援策に注力してもらいたい」としたが、これも尤(もっと)もである。

◆産官学体制の構築も

 本紙は、日本は物性物理が強く、優秀な学者も多いとして見るべき知的財産も少なくない大学を加えた産官学体制の構築を訴えた。

 東京は製造装置など強みのある分野に投資を集中するなどとし、朝日と同様の主張で、安定供給には国産だけにこだわるなとの見解を示した。

 これまでに日経や産経に論評がなく、意外で残念である。

(床井明男)