コロナ禍での安全な五輪開催へ努力を求める産経など、朝日は中止論

◆IOC批判まで展開

 「冷静に、客観的に周囲の状況を見極め、今夏の開催の中止を決断するよう菅首相に求める」

 東京オリンピック開幕まで2カ月を切る段階に入っても、五輪とそれに続くパラリンピックの開催か中止・延期をめぐる論争が依然として続いている。各紙論調は通常の2本分のワイド・スペースで、この問題を論じた。冒頭は五輪・パラリンピックの中止を掲げ、菅義偉(よしひで)首相に迫った朝日(5月26日付、以下各紙とも同月)の社説である。

 新型コロナウイルス禍の収束に手間取り、先が見えない。東京都などに発令中の緊急事態宣言も今月20日まで延長された。世論調査も中止や再延期を求める声が強い。

 こうした状況を踏まえれば、とても五輪どころではないと言いたいのだろう。「東京で五輪・パラリンピックを開くことが理にかなうとはとても思えない。人々の当然の疑問や懸念に向き合おうとせず、突き進む政府、都、五輪関係者らに対する不信と反発は広がるばかりだ」と強調。国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長が宣言下でも五輪は開けるとの認識を述べたことにも「驚くべき発言があった」と噛(か)みつく。「国民の感覚とのずれは明らかで、明確な根拠を示さないまま『イエス』と言い切る様子は、IOCの独善的な体質を改めて印象づける形となった」と難じた。IOC批判まで展開したのだ。

◆知恵絞り不安払拭を

 政府がコロナ禍の収束に手間取り、緊急事態宣言も再延長された状況認識は、他紙も同じであるが、だからといって朝日のように「五輪関係者らに対する不信と反発は広がるばかり」と独善的に決め付けたりはしない。何とか困難を打開して開催にこぎ着けるにはどうしたらいいのか、前向きに知恵を絞り理にかなう道筋を示すよう求めたのが読売(27日付)と日経(23日付)である。読売は人々が大会を機に感染拡大を懸念するのは自然なことで、菅首相の「具体的な感染防止策への言及は十分ではなかった」と指摘。それでも選手へのワクチン接種が進んでいることや、政府が海外観客の受け入れを断念したことなどで「開催へ向けた環境は整いつつある」ことを冷静に評価した。安全な大会実現に向けても、この1年間の各種イベントの感染対策で「蓄積された知見を、大会での対策徹底に生かしてもらいたい」と結んだ。

 日経は「アスリートや国民の不安を払拭すべく『どんな形なら開催できるのか』という喫緊の課題に、納得のいく指針」などをIOCと共有し「迅速な決定と明確な情報の発信につとめる」ことを国、都、組織委に注文。観客数についても「無観客」も選択肢に入れ「科学的な知見と医療の供給体制を踏まえ、結論を導」くことを求めた。理にかなう妥当な主張である。

 「開催の努力あきらめるな」と主張タイトルを掲げた産経(28日付)は、政府や組織委などに「五輪開催に向けた感染予防などの努力は、日本の社会を前に進める努力と同じ方向にあることを強く語ってほしい」と、開催への努力を続けることを熱烈に訴えた。国民のさらなる感染拡大への懸念にも理解を示し「政府や組織委が不安の払拭に務めるのは当然だ」と説き、大会の安全確保のために、当初想定の約18万人から約7万8千人に削減見込みの五輪関係者の来日人数をさらにぎりぎりまで詰めることや、8万人の参加ボランティア関係者全員へのワクチンの優先接種の拡大などを求めた。

 また、読売、日経も指摘した大規模イベントの知見にも言及し「これまで、深刻な感染拡大は起こっていない。今夏の東京五輪も感染リスクを極力下げた上で開催することはできるはずだ」と肯定した。共感できる主張だ。

◆日本支援訴える米紙

 本紙(31日付)は「感染下でも『安心安全な大会』を開催し成功させれば、コロナとの戦いに苦しむ世界へ希望のメッセージとなる」ことの意義を強調した。ほかに、毎日(23日付)は「感染対策や地域医療への負担に不安が拭えない」のに、菅首相らからは「安全・安心な大会の実現」への「納得できる説明が聞かれない」と五輪開催への懐疑的立場を示したが、朝日のような中止論にまでは踏み込まなかった。

 なお東京五輪開催では米紙ニューヨーク・タイムズなどの中止論社説は報じられたが、ウォールストリート・ジャーナル紙(28日付)は日本政府への米国の支援を主張。「世界が再び動き出したという重要なメッセージを送ることになる」と呼び掛けた。これを記事にしたのは産経(29日付)だけである。

(堀本和博)