コロナワクチンへの不信感を煽りながら接種が遅いと批判する現代

◆接種態勢の不備指摘

 新型コロナウイルスワクチンの接種がようやく回り始めた。これからどんどん加速していき、予定を前倒しして、高齢者以外へも広げていくことが期待されている。

 その中でワクチンへの不信感を煽(あお)る報道が一部にある。週刊現代(6月5日号)が「『自分は打たない』と決めた医師たちの意見」を書いている。「ワクチン接種が始まって3カ月強の5月21日までに、85名の日本人が接種後に亡くなっている」とし、幾つかの具体例を挙げているが、どれも接種後に亡くなったという事実だけで、ワクチンが原因で亡くなったという医学的根拠は示していない。ちなみに「政府はこれらの人たちの死とワクチンの直接の因果関係を認めていない(一部は調査中)」。家族を失った方々にはお気の毒だが、「ワクチン以外考えられないでしょう」は個人の感想にすぎない。

 それで、医師はどう言っているのか。「新潟大学名誉教授」の「岡田正彦氏」は「私は決してワクチン接種を受けるつもりはありません」と語り、「大阪府の開業医」は「今は様子を見たい」と言うなど否定的だ。医療専門家の言葉だけに影響は大きい。

 なぜ彼らは拒否しているのかといえば「ワクチン接種態勢は、いわば突貫工事で作り上げられた。そのため、多くの不備が放置されたままになっている」からだと言う。これを読む限り、ワクチンが人を死に至らしめるから、という理由を挙げているわけではない。

◆総合的な視点を欠く

 アナフィラキシーは「5月16日時点で、全国で146件」が確認されている。筆者の近親者は医療関係者として早めに接種の機会が回ってきた。ところが、過去にアナフィラキシーショックの経験があり、そのことを医師に言うと「接種はやめておきましょう」となり、ワクチン接種はしていない。

 インフルエンザの予防接種でも「100万回当たり、約0・08人の死亡例」があるという。コロナワクチンでも同じで、だから、個々のケースに対応するために、接種会場では医師の問診があり、控え室があり、医療関係者が詰めている。「不備」がないとは言わないが、対策はしているのだ。

 いったい拒む医師が全国の医療関係者の何%になるのか。わずか数人の意見をもって、「ワクチンを打たない医師がいる」とするのは、事実の一部ではあるが全部ではない。もちろんワクチンが万能というつもりはないが、社会的影響、経済的効果など、総合的な視点で捉えるべきだろう。

 この記事は同誌の主な読者である高齢者に「ワクチンを受けない方がいい」と唆すようなものだ。これでは接種に水を差すことになる。ましてや、同誌は巻頭の特集「東京五輪をただちに中止せよ」で、日本のワクチン接種が遅い、少ない、大失敗と批判している。打てというのか、打つなというのか、分裂した誌面だ。

◆ダダ漏れの水際対策

 変異株が東京や大阪で確認され出している。日本はてっきり“コロナ鎖国”しているものとばかり思っていたが、実は水際対策が“ダダ漏れ”状態だった。週刊朝日(6月4日号)が実態を伝えた。

 まず水際対策の仕組みは「5月21日現在、159カ国・地域からの外国人旅行者などが入国拒否の対象。このうちインド、パキスタン、ネパールなど6カ国からの外国人は、日本の在留資格を持っていても原則、入国拒否」だ。ということは外国人が持ち込んでいるわけではなく、日本人の再入国が問題だったのだ。

 「入国後の待機期間は14日間。その間、位置情報や健康状態を定期的に入国者健康確認センターに報告する」ことになっている。ところが「これが機能していない」という。入国時にスマホに入れるアプリを通じて位置情報を送信しなければならないのだが、「約3割」がこれをしていない。そしてそれを放置しているのが現状だ。

 「本来なら、入国者全員をホテルなどで最低6日間隔離することが理想だ」と同誌は言う。だが、それができない。なぜか。日本にはこういう時に強制できる緊急事態条項が憲法にないからだ。このままでは「五輪・パラリンピックの開催も危うくなる」のに、同誌はなぜかこのことを言わない。

(岩崎 哲)