コーツ氏の五輪「イエス」を叩き過ぎる残念な「日曜報道」橋下氏など
◆サンモニ安保で批判
自衛隊による新型コロナウイルスワクチンの大規模接種が始まるなど、一般向けワクチン接種は高齢者から順に進んでいく。感染の猛威に遭遇した米国や英国などはワクチン接種によって日常を取り戻し始めており、その経過を見れば時間を掛けながらコロナ後の曙光(しょこう)が差している。
しかし、わが国では東京五輪・パラリンピック、衆院選を控えてコロナ対策の政治的な時間の線引きが生じ、論争材料にされる傾向が目立つ。16日放送のTBS「サンデーモーニング」は、五輪をめぐる国会質疑とともに、日ごろ強調しない安全保障を政府批判に持ち出した。
河野克俊前統合幕僚長が日本記者クラブで行った記者会見(12日)映像を同クラブから提供を受け、政府のワクチン接種の対応について「危機管理として失敗している。先進国で最下位だ」と息巻く内容を流したものだ。
あたかも自衛隊ワクチン接種に関係した会見に見えるが、同クラブのホームページを確認すると河野氏の会見テーマは「バイデンのアメリカ6/台湾有事は日本も当事者/日米で中国抑止を」だ。
それでも自衛隊関係者の発言を得て、ゲストの田中優子法政大学前総長は「ワクチンにしても20年間の間、米国はじめとして開発に基礎研究からしている。そういうことを日本はしてこなかった。ワクチンの問題を安全保障とも捉えていなかったし、危機管理の問題とも捉えていなかった」と指摘。「これからの日本は危機管理をどうするのか、軍事だけでなく国全体の安全保障という大きな課題を抱えていると思う」と政府の取り組みを批判した。
◆IOCを診療拒否?
しかし同番組が、何年も前から危機管理体制や非常事態への備えに必要な法整備を求める専門家を出演させてきたかというと、むしろ逆であり、昨年の安倍晋三前首相の緊急事態宣言にも私権制限を問題にするなど批判的だったのである。「安全保障」と名の付くものに、同番組出演者の多くは安保法はじめ反対してきたので、言い得ているとしても本気か怪しい。
また23日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」では、国際五輪委員会(IOC)のコーツ調整委員長が21日の記者会見で緊急事態宣言発令下の五輪大会開催について問われ、「イエス」と返答したことをレギュラー出演者の橋下徹氏が「日本人の国民性を全く分かっていない」とやり玉に挙げた。
橋下氏は、営業停止されている民間事業者の不公平感を払拭するため「医療が逼迫(ひっぱく)しているときにコロナに罹(かか)ってもIOCのメンバーは診てやらないよ、バッハさん(IOC会長)やコーツさんにしても列後にして絶対診てやらないよと宣言すれば」と言って批判した。
公共の電波で言い過ぎだと思われるが、同様なバッシングは橋下氏に限らずテレビで顔を売るタレントほか多々あった。が、国民感情があるにせよ、日本に跳ね返るものもあるのではないか。
◆「おもてなし」が豹変
コロナ以前だが東京五輪を誘致できて歓喜した日本人から、なぜ世界保健機関(WHO)など助言による措置などに基づいて「イエス」と返答したことに、ここまで叩(たた)かれるのか、おそらくIOC側は豹変(ひょうへん)する「国民性」の理解に苦しむだろう。
海外からの五輪選手や関係者はワクチン接種を済ませることになっているが、コーツ氏自身は日本での五輪批判はワクチン接種の遅れと相関性があるとみている。また「緊急事態宣言」も都市封鎖など欧米の措置と日本はイコールではない。都内の多くは5~30%ほどしか人の動きは減じてなく、通常の7~9割以上の人出がある。
が、ピンチである。東日本大震災のピンチの時には「がんばろう日本」のスローガンが生まれた。それが今回は衆院選前の五輪とコロナ対策の言い合いに、「おもてなし」の国の心遣いを忘れたようで残念だ。
(窪田伸雄)