中国のアフリカ大西洋岸進出の可能性を指摘、警鐘鳴らす米メディア
◆海軍力の強化に注力
中国の中東、アフリカへの経済的、軍事的な海外進出に、国際社会からの警戒が強まる中、米アフリカ軍司令官が、中国が大西洋岸の西アフリカへの進出をもくろんでいると指摘し、波紋を呼んでいる。
米「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」は、アフリカ軍のタウンゼント司令官が4月22日の議会での証言で、「中国が、世界中に基地のネットワークを築こうとしていることは分かっている。私が最も懸念しているのは、アフリカの大西洋岸だ」と指摘したと報じた。
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、中東、アフリカへのインフラ整備などに投資しているが、それとともに軍事的進出も進めている。
2017年には、海の交通の要衝、スエズ運河につながる紅海の入り口に位置するジブチに海外初の海軍基地を開設した。埠頭(ふとう)を整備するなど拡大しており、すでに数千人の海軍兵、海兵隊員が駐留している。
米軍の準機関紙スターズ・アンド・ストライプスは先月、タウンゼント氏が、ジブチの中国海軍基地は空母受け入れが可能と指摘したことを明らかにしている。
中国は海軍力の強化に注力しており、4月下旬には、米軍のワスプ級強襲揚陸艦に匹敵する規模の新型強襲揚陸艦「075型」、大型のミサイル駆逐艦、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載可能な原子力潜水艦を就役させ、西沙諸島に近い海南島の基地に配備したばかり。習近平国家主席を迎えて大々的に式典を開催し、自国の海軍力を世界にアピールした。
ジブチの海軍基地拡大は、これら大型艦艇を将来、インド洋、アフリカ沿岸にまで展開させることを意図したものだろう。
◆海軍基地設置を模索
米軍は、01年の同時多発テロ後、「テロとの戦い」主体の戦略の中で中東・アフリカでの軍事プレゼンスを強化してきた。しかし、近年は、中国、ロシアを念頭に入れた戦略へと転換、中国に対抗するため、中東・アフリカから東アジアへ軍事シフトを進めている。
トランプ前大統領も在職中に、アフリカ駐留米軍の縮小の意向を表明していた。中国にとっては、手薄になったアフリカに進出しやすい環境が整っているとみるべきだろう。昨年の国防総省の中国の軍事力に関する報告書でも、アフリカ南西部、大西洋岸のナミビアに補給基地の設置を働き掛けていた可能性があると指摘されていた。
タウンゼント氏は今月6日には、米通信社とのインタビューで、中国がアフリカ西海岸への大規模な海軍基地設置を目指し、「モーリタニアから南のナミビアまで」の沿岸各国に働き掛けていると指摘。軍事力を大西洋に直接投射することを可能にするため、空母、潜水艦を受け入れられる海軍基地の設置を模索していると、危機感を表明した。
◆ジブチを補給基地に
米シンクタンク、民主主義防衛財団の軍事・政治力センターのブラドレー・ボーマン所長はこの問題について、米紙ワシントン・タイムズとのインタビューで、「大西洋で、中国海軍の水上艦、潜水艦に遭遇するのが当たり前のようになるのは時間の問題だ」と指摘した。
また同氏は、ジブチの中国海軍基地について、「(アフリカ)大陸とその海域の向こうに戦力を投射するための基盤」と述べ、大西洋進出のための補給基地としての役割をジブチに果たさせることを中国はもくろんでいるとの見方を示した。
米国は、日本、オーストラリア、インドと共に4カ国間の枠組み「クアッド」を構築し、中国に軍事的に対抗することを目指している。
ボーマン氏は、中国のアフリカ進出について「中国に依存させることで、資源を引き出し、安全保障上の優位性をもぎ取ろうとしている」と指摘、「新植民地主義、新帝国主義」だと警鐘を鳴らしている。
(本田隆文)