ロケット残骸落下で中国に「国際協調に責務果たせ」と朝日の意外

◆やんわりと中国批判

 中国が4月下旬に打ち上げた大型ロケット「長征5号B」の残骸が9日、制御不能のまま大気圏に再突入してインド洋に落下した。人的被害などは報告されていないが、何とも危険極まりない話である。

 この事態に社説で論評したのは、これまでに朝日と本紙の2紙のみ。朝日が早々に11日付で「中国と宇宙/国際協調に責務果たせ」と掲載したのは意外だった。本紙は12日付で「中国ロケット/安全軽視の宇宙開発を許すな」である。

 朝日の「国際協調…」とは、中国は「宇宙大国」を掲げて急速に開発を進めているが、「野心的な試みや高い技術を誇示するだけでなく、国際協調でも積極的な取り組みをするべきだ」というもの。

 批判のトーンは、本紙と比べても明らかに弱く、なぜ国際協調なのか分かりにくさもある。国際協調とは宇宙空間の安全な利用を図る上での取り組みへのことで、「発射時の対策や落下の分析などの詳細な説明を避ける姿勢は、無責任のそしりを免れまい」と中国をやんわりと批判した。

 その点、本紙は「安全を軽視した中国の宇宙開発は決して容認できない」と明快である。

 今回の残骸が落下したロケットは、中国が2022年の完成・運用を目指す独自の有人宇宙ステーションのコアモジュールを運んだもので、今後も10回の打ち上げを計画しているが、「宇宙開発を急ぐあまり、安全を軽視して地上の人たちを危険にさらすことは言語道断である」と。

◆国際ルール作り急務

 また本紙は、中国が19年1月に世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させたことや、昨年6月に独自の衛星測位システム「北斗」を完成させていることを指摘しながら、「しかし中国のなりふり構わぬ宇宙開発は極めて身勝手なものであり、それが安全軽視の姿勢にも表れている。宇宙での危険防止のための国際ルール作りが急がれる」とした。

 確かにその通りで、朝日も「(米中)共に責任ある大国を自任するからには、宇宙空間の無秩序な乱用を防ぐための実効性のあるルール作りを主導すべきである」と訴えるのである(朝日が言う「中国が共にルール作りを主導すべき」との主張は現状では空想、空念仏に近いが)。

 宇宙利用に関するルールには、1967年発効の国連宇宙条約があるが、新たなルール作りについては、朝日が指摘するように、拘束力を伴う国際条約作りは加盟国の利害が一致しない事柄が増えて難しくなっている。

 そこで近年は、拘束力はないものの、各国が自主的に対策を取るように求める「ガイドライン」が国際的な潮流になっている。

 有名なのは、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で2007年に採択された、宇宙ごみ低減のためのガイドラインである。

 運用を終えた人工衛星や、故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、爆発や衝突によって発生した破片などが宇宙ごみとなり、現在、10㌢以上のもので約2万個に上り、国際宇宙ステーション(ISS)への被害や将来の宇宙活動の妨げが懸念されるからである。

◆破壊実験でごみ急増

 朝日は指摘しなかったが、07年ガイドライン採択の契機となったのが、同年1月に中国が行った衛星破壊(ASAT)実験である。

 実験当時、観測可能な10㌢以上の宇宙ごみの増加率は減少傾向にあったが、この実験で約2680個の破片がばらまかれ、2000㌔以下の低軌道での宇宙ごみ総数を一挙に25%増加させたのである。

 今回の中国ロケット残骸落下を機に新たなルール作りが進むのか期待したいところである。

 そのほか、宇宙にまつわるものでは、読売が7日付で「日本人飛行士/宇宙開発担う人材を育てたい」を載せ、日本の存在感を高める宇宙開発へ注文を付けた。

(床井明男)