読売・産経が報じ論評した「従軍慰安婦」不可とする答弁書閣議決定

◆「誤解招く恐れ」指摘

 政府が閣議決定したことを伝えるその記事は翌日(4月28日)付の読売、産経が報じたが、読売の第2社会面掲載が示す通り目立つ扱いではなかった。だが、両社の記事は閣議決定の重要な内容を伝えるものであった。

 それは慰安婦をめぐる表現で「『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招く恐れがある」とする答弁書を閣議決定したとするもので、答弁書はさらに「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切だ」と明記したというのである。

 その上で、読売は文部科学省の教科書検定で「従軍慰安婦」と表現した教科書が合格していることについて同省が「『今回の閣議決定は今後の検定に反映される』との考えを示した」と報じた。

 一方、産経は「従軍慰安婦」表現は不適切としただけでなく、答弁書は労働者の動員についても「移入の経緯はさまざまであり、『強制連行された』『強制的に連行された』『連行された』とひとくくりに表現することは適切でない」と指摘した、ことを報じたのである。

 答弁書はいずれも日本維新の会の馬場伸幸・衆院議員の質問主意書に答えたもの。文科省の教科書検定では、4月から使用の中学校・社会(歴史)で1社、来年春から使用の高校・歴史総合で2社が検定をくぐり抜けて「いわゆる従軍慰安婦」など事実と違う記述が復活し問題化していた。両社の記事は、答弁書が平成5(1993)年の「いわゆる従軍慰安婦」と表現した河野洋平官房長官談話は継承しつつ、「朝日新聞が2014年、慰安婦を強制連行したとする証言を虚偽と判断し、事実関係の誤りを認めた経緯を踏まえ、従軍慰安婦という表現を『誤解を招く恐れがある』と指摘」(読売)したなどと報じた。記事は、この用語の使用が閣議決定で明確に否定されたことを的確に伝えたのである。

◆教科書での不使用を

 「従軍慰安婦」不可とする答弁書の閣議決定は、公文書や教科書の記述に大きく影響するものだけに、読売と産経は記事に続いて社論でもこれを論じた。メディアの責任を果たしたと言っていい。

 「『従軍慰安婦』という言葉は、強制連行があったかのような誤解を招きやすい。教科書などで使うのは不適当であり、不使用を徹底したい」。

 冒頭でこう呼び掛けた読売(社説・5月1日付)は「この言葉は、戦時中は存在しておらず、1970年代以降に使われるようになった造語」だと指摘。「旧日本軍が朝鮮人女性を強制連行して前線の慰安所に送り込んだとする吉田清治氏の虚偽証言もあって、国内外で広まった」こと、吉田証言などを基に「慰安婦の強制連行があったと報じてきた朝日新聞は2014年、吉田氏の証言を虚偽だと認め、過去の記事を取り消した」ことなど、これまでの経緯に言及した。

 その上で教科書会社に対して、こうした「過去の経緯も踏まえ、誤解が生じかねない用語の使用を避ける責任があることをしっかりと認識してもらいたい」と事実に基づく責任ある対応を促したのは妥当である。

◆河野談話の撤回迫る

 産経(主張・4月30日付)は、さらに強烈な主張を展開した。「従軍慰安婦」という「不適切な表現が検定をパスしていたことにあきれる。当然、修正が必要だ」と教科書の早急な是正を強く求めた。

 また、「従軍慰安婦」表現が使用されている河野談話を政府が継承するとしていることにも噛(か)みついた。「事実を無視した用語にすぎない。これを放置してきたことで、強制連行された『性奴隷』などという嘘が世界に広まった」と批判。「談話によって日本の名誉が著しく傷つけられてきた。教科書などへの影響もいまだに続く」など悪影響を指摘し、談話の撤回にまで踏み込んで迫ったのである。

 一方、政府の答弁書で引用された虚偽報道の当事者である朝日新聞は「『慰安婦』が適切/政府答弁書決定」のベタ見出しの記事を、両社記事に1日遅れて29日付で掲載した。記事は自社の虚偽記事については巧妙な手法で素通りしている。

(堀本和博)