「同性婚」で公共放送の使命を放棄し公正な材料提供せぬNHK


◆意図的に視聴者誘導

 同じマスメディアの中でも、「社説」を持つ新聞は自らの主張を読者に伝える使命があるが、公共の電波を使うテレビには、新聞より高い公正さが求められる。特に、公共放送のNHKの報道姿勢を評価するとき、公正さはとりわけ重要視される。

 NHK自らもその役割・使命を「視聴者の判断のよりどころとなる正確な報道や豊かで多彩なコンテンツを全国で受信できるよう放送することで、『健全な民主主義の発達』や『公共の福祉』に寄与すること」(ホームページより)と述べているのだから間違いない。

 ところが、筆者はこれまで幾度もこの欄を通じて、LGBT(性的少数者)の権利拡大キャンペーンを続けるNHKは、情報提供で公正さに欠け、視聴者を意図的に誘導していると指摘してきた。その報道姿勢はこのところ、さらに強まっているようだ。

 3月17日、札幌地裁が「同性婚」を否定する婚姻制度は「違憲」であるとの判決を下したことで、自分たちの偏向報道に自信を持ったのだろうか。総合テレビ夕方の「ニュースシブ5時」は4月21日、同性婚問題を特集したが、偏った情報提供という点で、典型的な番組だった。

◆感情に訴え同情誘う

 番組はまず、結婚した男女に与えられる権利・利益を列挙することで、夫婦と同性カップルの「区別」があたかも「差別」であるかのごとくに印象付ける手法を採った。結婚すれば、夫となった男性は配偶者控除が受けられるし、夫の扶養になる妻は健康保険や国民年金の適用を受ける。夫が亡くなっても、遺族年金がもらえ、財産相続においても相続税が軽減されるなど、妻はさまざまな優遇措置を受けられる。

 一方、同性カップルの関係は結婚と見なされないので、前述した優遇措置は当然、適用されない。この説明の後、女性アナウンサーが発したコメントは、LGBT問題に対するNHKの偏向姿勢を象徴するものだった。

 「性別が同じというだけで、こんなに違う!」―。これまでNHKはたびたび、女性アナウンサーに、エモーショナルな言葉を口にさせている。例えば、「誰でも好きな人と結婚できる社会をつくりたい」という趣旨の発言もあった。視聴者の感情に訴え、同情を誘おうとしているのだろう。

 人間一人ひとりは皆同じ価値を持つのだから、差別があってはならないのは当然のこと。しかし、婚姻制度の議論で考えるべきことは、一組のカップルあるいは多人数がつくる人間関係の中で、政府はどの関係を優先して保護すべきなのかということで、そのためには制度の目的を明確にする必要がある。その上で、異性カップルと同性カップルでは何が違うのか。もし違わないのに区別したらそれは「差別」になるのである。

◆生殖の問題に触れず

 では、異性と同性の関係における一番の違いは何かと言えば「生殖」だ。子供が生まれる可能性があるかないかの違いである。もちろん、男女間でも子供が生まれないカップルが存在するが、異性と同性の一般的な比較で、生殖の可能性を中心に置くのは正しい。

 そうすると、婚姻制度の目的が見えてくる。つまり、なぜ一組の男女に限定し、近親婚を禁じるのかといえば、それは生まれてくる子供の福祉のためなのだ。もし、好きな人同士の関係を保護することが目的だとするなら、同性カップルだけでなく兄姉の結婚も認めるのか。あるいは一夫多妻をはじめ、多人数間の結婚も認めるのか。そんな問題も出てこよう。

 筆者には「性別が違うだけで、こんなに違う」という女性アナウンサーの発言は、婚姻制度についての勉強不足から出たとはとても思えないのである。生殖の問題については、番組中、誰も触れなかったからだ。同性婚を認めるなら、同性カップルに夫婦と同じように人工授精を認めるのかという問題も出てくるがこれも無視した。

 視聴者にどの材料を提供し、どの材料を触れずにおくか。これは全てはLGBTキャンペーンの目的に沿って決まる。では、その目的は何か。同性婚の制度化だ。視聴者の判断のよりどころとなる「正確な報道」を放棄しているのが今のNHKである。

(森田清策)