東芝買収提案に経済安保で懸念する産経、公正・透明性求めた日経

◆政府に慎重審査求む

 東芝が英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズから買収提案を受け、14日には臨時取締役会を開いて対応を協議。CVCは改めて詳細な提案を行い、TOB(株式公開買い付け)を実施するという。

 6日の初期提案では1株当たり5000円の買い取り価格を提示。7月にもTOBを実施し、10月の上場廃止を見込む。買収額は2兆円を超える可能性があり、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)や日本政策投資銀行などにも提案への参加を呼び掛けるという。

 この買収提案にいち早く社説で論評を掲載したのは産経(9日付)で、「安保技術流出を懸念する」との見出しを掲げた。いかにも産経らしい論調の社説である。

 産経が懸念するのは、見出しの通り、東芝が原発などで高度な技術を有しており、外資の傘下に入ることは経済安全保障の観点から問題があるからである。買収に向けては、改正外為法に基づく政府の事前審査を受ける必要がある。同紙は政府に対し、「買収の可否を慎重に審査してもらいたい」と注文を付けたが、尤(もっと)もである。

 CVCの買収提案には東芝にとって、株式が非公開化されることで「物言う株主」への対策に追われることがなくなり、本来の事業運営に集中できるという側面もある。産経はこの点でも、非上場化した後、どのような将来像を描くのか、その青写真も同時に示してもらいたい、とした。

◆特別委設置し検討を

 産経がまず経済安保を懸念したのに対し、東芝に「取締役会には公正で透明な議論を望む」と訴えたのが日経13日付社説である。

 買収案が実現すれば、2兆円の時価総額を持つ、日本を代表する製造業が上場廃止となり、資本市場や産業界への影響が大きいからで、CVCが6月にもまとめる最終提案を受けた場合、「提案に応じるメリットとデメリットを公正に検討してほしい」というわけである。

 前述の産経指摘の後半部分と同じで、非公開企業になれば、四半期ごとの決算や日々の株価、短期の利益還元を求める物言う株主の声にとらわれることなく、長期の視点で成長戦略を実行しやすくなり、「企業価値を高めたうえで再上場すれば、資本市場の活性化にもつながる」というメリットがある。

 一方、デメリットとしては、個人や資産運用会社などの一般株主の声が届かない、買収金額が巨額になると銀行からの借り入れも膨らみ、大胆な事業投資のリスクをとりにくくなる、借入金返済のために事業売却を迫られれば雇用への影響がでかねない――と経済紙らしい分析を示す。

 日経は買収提案の検討に際し、「透明性の高い手続き」も求めた。そのために設置が検討されている、社外取締役らで構成する特別委員会には、CVC日本法人の会長だった車谷暢昭社長や、現在も最高顧問を務める藤森義明社外取締役は「外れるのが筋だ」と指摘したが、現実は日経の読み以上をいき、臨時取締役会で車谷社長の辞任、前社長の綱川智会長の復帰という異例の事態に発展。

 提案に対しても「慎重な検討を要する問題が少なからずある」(永山治取締役会議長=指名委員会委員長)と対立姿勢を鮮明にした。

 産経が真っ先に取り上げた経済安保からの側面についても、改正外為法の面から問題ない買収案かどうかも吟味する必要があると指摘する。

 透明性については、産経も買収金額の決定などで透明性の確保が欠かせないとし、東芝側も独自の検証委員会を設けるなどで金額の妥当性を検討すべきだとした。

◆経営陣に注意を促す

 産経は最後に、東芝が「マネーゲーム」に翻弄(ほんろう)される事態が「危惧される」とし、そうなれば企業価値が損なわれ、経営再建も果たせないとして、経営陣は肝に銘じてもらいたいと注意を促した。

(床井明男)