中国の軍拡脅威に日米同盟を軸にして欧州とも連携強化を説く読売

◆朝日が最も強い批判

 「国際社会の中国への懸念は一層高まった。習近平政権は、強硬路線が自国に不利益をもたらし、地域の安定も損ねている現実を自覚すべきだ」(読売・社説6日付)

 国際的孤立を深めているのも何のその、中国の内外にわたる独善強硬路線の暴走が止まらない。外に向かっての強硬外交では、台湾への挑発、国際的約束を破る香港の一国二制度破壊、南シナ海での一方的な行政区設置でベトナムなど東南アジアで拡大する摩擦、インドやブータンなどとの国境紛争など、力づくの威圧を繰り返してきた。

 軍事的威圧だけでなくコロナ禍批判をした豪州からの輸入規制を強めたり、台湾パイナップルを輸入禁止にしたり、経済を圧力の道具にしてもきた。日本とも、第2海軍と化した公船(海警)が沖縄・尖閣諸島の周辺領海の連続侵入を繰り返し、日本漁船を追尾したりの狼藉(ろうぜき)など。周辺諸国との摩擦を際限なく広げているのだ。

 内政では、米欧などがジェノサイド(民族大量虐殺)だと指弾するウイグル人弾圧やチベット問題など人道・人権問題なども意に介さず「内政だ」と突っぱねてきた。

 こうした中だけに各紙の論調は、この5日に開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当、11日まで)で示された前年比6・8%増の1兆3553億元(約22兆6000億円)の2021年国防予算に対しては、中国の米軍に対抗する「強軍」路線を継続するものとして強く憂慮し批判を展開した。当然である。

 最も強い批判を示した朝日(7日付)は、冒頭で「中国の唱える『平和発展』をどう信じろというのだろうか。これほど軍拡を続けるのは、なぜなのか。周辺国の不安と警戒が高まるのは当然である」と切り出した。そして、さらに「もはや到底、専守防衛とはいえず、予算の内訳も不透明だ。脅威の下にあるのは中国ではなく、周辺国の側である」と繰り返したのである。

 産経(6日付)も、言及は短いが、国防費増は「軍事力による南シナ海への海洋進出や台湾への威嚇、核戦力の増強を続ける意思を鮮明にしたことを意味する。『強軍思想』の暴走を国際社会は阻止せねばならない」と強い調子の呼び掛けである。

◆国防費増触れぬ毎日

 冒頭の読売は「予算の膨張は、軍事力で米国に追いつく戦略の反映と言えよう。野放図な軍拡は、看過できない」。日経(7日付)は「各国が感染症対策に追われるなか、軍備増強を進める中国には厳しい視線が向けられている」、本紙(6日付)は「覇権主義的な動きに拍車が掛かることが憂慮される」とそれぞれ抑制的な表現で批判した。

 その中で毎日(6日付)は、中国の国防予算増には数字を含めてまったく言及しなかった。近年目立つ中国の国際ルール逸脱、公船の武器使用を定めた「海警法」施行による日本など周辺国への脅威、香港の政治制度の見直し、ウイグル族への人権弾圧などを総論的に取り上げた。最後に「力を背景に拡大を続けるのでは国際協調は保てない。国際社会の懸念に配慮した節度ある行動で大国としての度量を示すべき時だ」と締めたのだが、中国を諫(いさ)める程度の批判の甘さに、妙なかったるさが残った。

 朝日などは、軍事予算増だけでなく実際の中国軍の動きにも触れて警戒する。「軍の動きも危うさを増している。南シナ海では、演習や新型ミサイル実験を活発化させている。台湾への挑発的な動きも目立ち、米中の軍事的な緊張が高まりつつある」ことに深い憂慮を示した。

◆警戒感強める周辺国

 読売も李克強首相の活動報告に「武力行使も辞さないととれる表現だ。台湾や南シナ海などの『核心的利益』を口実に軍事的攻勢を強めることが懸念される」「中国は国際ルールを無視して、自らの一方的な論理で『力による現状変更』を南シナ海などで進めている。威圧的な行動は周辺国の警戒をかき立て、地域の緊張が増している」ことを指摘する。では、日本はどうすればいいのか。

 中国との経済協力を重視してきた英仏独などで、関係見直しの機運が急速に高まっている機を捉え「日本は米国との同盟を軸に欧州とも連携を強める必要がある」(読売)ことを強調する。同意である。

(堀本和博)