米中首脳会談をいち早く取り上げるも論調の違い際立つ産経と朝日
◆世界情勢への影響大
「米国と中国の2大国の関係は、今世紀の世界のありようを左右する。不毛な対立ではなく、健全な共存をめざす対話を心がけてほしい」(朝日13日付社説)。
「習氏に直接、中国の非を戒め、米国の立場を明確にしたことを評価したい。日本など同盟国は一層の対中結束で呼応すべきだ」(産経・同主張)。
米国のバイデン大統領は10日に、中国の習近平国家主席と電話による会談をした。大統領就任後、初めてとなる米中会談は2時間に及んだという。バイデン氏は「自由で開かれたインド太平洋」の秩序維持が米国の最優先課題だと強調し、香港での住民弾圧や、ウイグル族への人権侵害、台湾を含む地域での威嚇などの問題行動に懸念を伝えた。
また経済分野でも、強制的な技術移転などを念頭に中国の経済慣行が威圧的で不公正だと指摘するなどした。
これに対して習氏は香港、ウイグルや台湾の問題については「中国の内政だ」と反論。その一方で「中米が対抗すれば両国と世界の災難となる」「中米は各種の対話メカニズムを再構築し、互いの政策意図を正確に理解して、誤解を避けるべきだ」と対話を呼び掛けたのである。
冒頭の朝日が言うように、確かに米中2大国の関係は今日とこれからの世界情勢に大きな影響を与える。それだけに、バイデン政権初の米中会談は重要ニュースであったはずである。しかし、各紙12日付朝刊で、第1面トップで大々的に報じられたのが不適切発言で五輪組織委員会の「森会長、辞任へ」(読売)の記事で、このニュースはその脇へと押しやられてしまった。直後に米中会談をテーマに社論を掲げたのは朝日、産経と本紙(14日付)だけ(後に、読売17日付、毎日20日付が、それぞれバイデン氏の国防総省に軍事的な対中戦略見直しを指示したことに絡めての掲載)であった。
◆失敗した政策再提案
朝日と産経の主張は際立った違いを示した。
朝日は新型コロナ対応や気候変動などを語り合ったバイデン氏が「米市民の利益になるときは、中国と協力すると伝えた」ことで、中国と「全面的な対抗ではなく、課題ごとに是々非々で臨む姿勢を示唆した」こと。「習氏も『様々な対話メカニズム』づくりを提起した」ことを挙げ、「双方が利害を共有する領域を広げるべきだ」と対話による緊張緩和に期待をにじませた。
その一方で、中国市場の通商障壁や貿易を恣意(しい)的に対外制裁に使う行動などを指摘。中国軍の台湾海峡での挑発、香港、新疆などでの人権侵害など、協議で鮮明になった相違点に言及した。そして「民主主義や法の支配などを重んじるバイデン政権と、権威主義を強める共産党体制との間には、埋めがたい溝がある」認識を示したのである。
それでいて、社論の結びは日米豪印4カ国の首脳協議の枠組みを「中国を封じ込めるような冷戦思考であってはなるまい」と牽制(けんせい)。「民主主義と人権の原則を共有するアジア太平洋の主要国が、中国を巻き込みながら穏健な秩序づくりを主導する」よう求める。
それができなかったから米国がこれまでの「関与政策」の失敗を認め、転換したのに、なおも古びたそれを持ち出すのである。嗚呼(ああ)。
◆米の姿勢軟化を警戒
産経は断固とした主張である。習氏が内政問題とした「台湾威嚇は日本を含む地域の安全を揺るがす。香港の民主派弾圧は『一国二制度』の国際公約違反」だと批判。また「誤解を避けるべきだ」と指摘した政策意図も「南シナ海の軍事化など力ずくの海洋進出の意図が覇権追求でなくて何なのか」「地域の平和を脅かしているのは中国である」と「誤解でない」ことを強調して反論する。
その上で「中国は、バイデン政権の発足を、米中関係の仕切り直しの好機とみている」ことを警戒。習氏の2012年訪米では副大統領時代のバイデン氏がホストを務めたことを挙げ、中国は「あらゆる外交資源を駆使し、米国の対中姿勢をやわらげようとしてくるだろう」と指摘。日本政府に米中関係の注視を怠らず「バイデン政権が揺らがぬよう支え」ていくことを求めたのである。同感である。
(堀本和博)