バイデン米政権の対話重視のイエメン政策の危うさ指摘したWSJ
◆攻勢強めるフーシ派
バイデン米大統領は今月に入って行った演説で、外交・安全保障の柱として中露の覇権主義への対抗とともに、中東イエメンの内戦への対応を表明した。対話による解決がその主眼だが、攻撃は激化、出口は見えない。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、社説「バイデンのイエメン・ギャンブル」で、バイデン政権のイエメン政策の危うさを指摘した。
バイデン氏は、トランプ前政権のイエメン政策を転換し、イランが支援するシーア武装組織フーシ派のテロ組織指定を解除、内戦に介入するサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)への軍事支援を停止することを明らかにした。国務省報道官は「大統領は、イエメンの戦争を終わらせるための措置を取る。サウジは交渉による和解を受け入れた」と指摘、武力衝突の抑制と交渉の推進へ、米国が積極的に介入していく意向を表明した。イエメン特使を新たに任命したこともその熱意を物語っている。
ところがこれらの措置を受けて、イエメン国内、サウジへのフーシ派による攻勢が強まっている。今月に入って、サウジへの無人機による攻撃を実施、空港などが被害を受けた。また、首都サヌア東部のマーリブを攻撃し、暫定政権側と激しい戦闘を展開したことが伝えられた。
WSJは、「中東では、優勢な立場からでない限り、敵は一方的な譲歩を弱さとみる」と指摘、バイデン政権の対話路線がフーシ派の攻勢を招いたと主張する。
◆影落とすイラン情勢
バイデン政権のイラン政策もイエメン情勢に影を落としている。
トランプ政権はイラン核合意を2018年に離脱し、経済制裁を復活させた。これに反発したイランは、ウランの濃縮度を引き上げ、核武装に近づいている。イランの狙いが米国の制裁解除であることは確かだ。
一方、バイデン政権は核合意の復活を目指し、イランの合意順守を要求したが、イラン側は制裁解除が先だと主張、両国の駆け引きが続いている。
米国の支援停止でサウジ、UAEのフーシ派への攻撃が後退しても、イランのフーシ派支援が続く限り、紛争がやむことはないだろう。
WSJは、「米国はイランに歩み寄るが、イランの支援を受けたフーシ派は勝ちを見据え、米国の後退を受けて、支配力を強化しようとしている」と指摘、「友人の足元をすくい、敵を勢いづかせることは和平へのいい方策とは言えない」とバイデン政権の対応に苦言を呈した。
一方、10年~13年にかけて駐イエメン米大使だった、ジェラルド・ファイアースタイン氏は米公共ラジオ(NPR)への寄稿で、「アラブの春の目的は失われた」とした上で、米国が対話と外交によるイエメンの内戦終結に舵を切ったことを歓迎、「残虐な内戦の終結への新たな希望」とバイデン政権への期待を表明した。
ファイアースタイン氏は、大使だった時に進めていた民主化と和解への取り組みが失敗したことを認めた上で、「民主化へのイエメンの人々の実験は終わっていない。イエメンの人々は強く、安定し、繁栄した国に住みたいと強く願っている」と、バイデン政権の対話と外交に強い期待を表明した。
その上で「米国は、無数のイエメン市民の命と幸福を脅威にさらす人道への災厄への対応をリードすべきだ」と米国の介入の重要性を指摘した。
◆国民の8割支援必要
「世界最大の人道危機」と言われたイエメン内戦で、現在、3000万人の人口のうち8割が支援を必要としているという。死者は二十数万人に上る。その大部分が普通の市民だ。
トランプ政権中、イエメン内戦は激化、人道被害も悪化した。バイデン式対話路線が功を奏するかどうかを見守る必要がある。
(本田隆文)