「原発賛成6割」との注目に値する世論調査結果を地味に報じた毎日

◆“常識”ひっくり返す

 「犬が人を噛(か)んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」

 最近は誰も言わなくなった報道に関する「ことわざ」だ。犬が人を噛むのは当たり前(今では事件だが)、人が犬を噛むのは珍事。だからインパクトがあり、ニュースになる。そんな意味だが、これはどうだろう。

 毎日新聞社と社会調査研究センターが行った全国世論調査で、日本の原発政策について考えに近いものを尋ねたところ、次のような回答結果を得た(13日実施、14日付)。

▽原発はゼロにすべきだ……39%
▽ある程度の原発は必要だ……56%
▽原発は増やすべきだ……4%

 原発必要派が実に6割に上っているのだ。東京電力福島第1原発の事故後、一部メディア、ことに朝日などは「反原発」が国民世論で「原発ゼロ」は当たり前。そんな論を張ってきた。少なからず国民もそう思ってきたのではあるまいか。毎日の世論調査はその“常識”をひっくり返した。だから、これはニュースではないか。

 ところが、残念なことに毎日の扱い方は地味だった。記事は中面の下段に2段見出しで「『原発ゼロに』39% 『ある程度必要』56%」と報じる。主見出しはあくまで「原発ゼロ」で、「必要」はそれを補足するソデ見出しにすぎない。それでうっかり見過ごすところだった。だが、「原発必要6割」は注目に値する。こっちの方こそニュース性があるのに主客転倒。毎日は反原発に引きずられているようだ。

 記事は「年代別に見ると、『原発ゼロ』を選んだ人は18~29歳は26%▽30~40代は30%▽50~60代は41%▽70歳以上は56%―と年代が上がるほど多い傾向があった」と、主語は「原発ゼロ」。これを「原発必要」に置き換えれば、若い世代は7割以上、中高年世代は約6割、70歳以上でも44%が「必要」と回答した、となる。こう書けば、原発がいかに必要とされているかが知れる。随分、イメージが違ってくるはずだ。

◆朝日の調査とは真逆

 この結果は朝日の世論調査とは真逆だった。昨年12月に実施した朝日調査では「原子力発電を利用することに賛成か」と聞いたところ、賛成29%、反対57%(1月12日付)。これを朝日2月19日付の夕刊コラム「世論調査のトリセツ」が取り上げ、事故翌年2012年夏の調査では賛成37%、反対52%だったので、賛成が減り、反対が増えたと「原発利用反対6割」を強調している。

 朝日も年代別の賛否を書いている。それによれば、年代による差が顕著で、40代以下は賛成が4割前後と比較的高く、男性に限ると反対を上回り、70歳以上は、賛成は21%にとどまり、68%が反対だったとしている。若い世代ほど原発賛成、老けた世代ほど原発反対という傾向は毎日も同様だが、毎日の場合は「必要6割」と賛否が逆転しているところがまったく異なる。

 朝日の世論調査について筆者は本欄2月2日付で、禁じ手の「キャリーオーバー効果」(前の質問の内容が後の質問に影響を及ぼす一種の誘導)との疑問を呈した。コロナ禍や東日本大震災の質問を数多く重ね、その直後に原発の質問をしていたからだ。

 両調査には2カ月の時間差があるが、原発の評価をめぐって変化があったとは思えない。毎日の質問はコロナ関連と東日本大震災の後に原発を聞いており、朝日と変わりない。それでも「原発必要6割」をはじき出した。やっぱり、これはニュースだ。

◆堂々と必要性訴えよ

 政府は温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げるが、原発については態度を曖昧にしている。そんな遠慮は無用。堂々と原発の必要性を訴えるべきだ。何せ毎日の世論調査が後押ししている。犬が西向きゃ尾は東。反政府の朝日だから反原発は当たり前。そっちは恐るるに足らずだ。

(増 記代司)