「宗教2世」への社会の介入をあおる「ハートネットTV」の危うさ


◆ネットで体験を発信

 NHKEテレ「ハートネットTV」は障害、LGBT(性的少数者)、貧困などさまざまな問題に福祉の視点から解決策を探る番組だ。9日放送のテーマは「“神様の子”と呼ばれて~宗教2世 迷いながら生きる~」。福祉番組が宗教を扱うことは、どういうことかと怪訝(けげん)に思って見た。

 「宗教2世」とは聞き慣れない言葉だ。番組の定義によると、「自らの意志ではなく、親が信仰する宗教に入信し、子供時代を過ごした人たち」。彼らが大人になっても信仰を持ち続ければ問題はないが、中には「親に強いられた教義に縛られ、自分を押し殺しながら結婚や進学に制約を受けたという人もいる」。

 そんな彼らが今、宗教2世として生きてきた体験をネットで発信し始めている。そして、宗教は違っても似た境遇で育った者同士が支え合うグループもできているという。

 親子の愛情と宗教の間で苦悩する彼らの声を紹介するだけならいいが、そこに福祉の視点からアプローチすれば結局、宗教に対する社会の介入を招くことになろう。それは世俗の価値観で宗教の善しあしを判断するという禁じ手を使うこととどう違うのか。

 番組が進むうちに、魔女狩りや宗教弾圧に発展する危うさがちらついてくる。番組内で宗教団体名がすべて伏せられていたのは、制作者がその危険性を自覚していたからではないか。

 例えば、こんな女性(40代)が登場した。子供の頃、布教活動で母親と一緒に一軒一軒回った。冬は寒く手足がかじかむ。玄関先で「冷たい」と泣くと、家に帰ってから「神様の名前に傷を付けた」と尻を叩(たた)かれた。

 また、自分たちが信仰する神様以外を崇(あが)めることができず、学校では校歌や国歌も歌えない。母親はその理由を教室で説明しなさいという。そればかりか、病気になった母親は、宗教上の理由から輸血を拒否し死亡した。

◆排外主義となる恐れ

 世俗の価値観では「それはあんまりだ」となるだろう。筆者も大人ばかりか子供でも輸血はダメと聞くと、やりきれなくなる。しかし、『両刃のメス』などの著作を持ち、作家としても知られる大鐘稔彦のような外科医が信者に対する無輸血手術を何十件も手掛けるのは、信仰する人の魂の問題には、医師とて介入できない、せめて力の限りを尽くして患者の望み通りの手術をする以外にないと思っているからだろう。

 前出の著書で、大鐘は「日本の現役の外科医がすべて彼らを拒んだら、それは他人の主義主張は一切認めぬという狭量な排他主義以外の何ものでもないだろう」と書いている。これは筆者の勝手な推測だが、彼が信仰に理解を示すのは、若き日にキリスト教会に通っていたことと無関係ではないだろう。

 ところが、「多様性のある社会」を目指すはずのNHKが唯一登場させた研究者は、立正大学心理学部教授の西田公昭。いわゆる「マインド・コントロール」の研究で知られ、日本脱カルト協会代表理事を務める学者だ。マインド・コントロールは米心理学協会などの研究者たちが科学的根拠を否定したほど曖昧な概念。それを内心の自由に関わる問題に用いれば排外主義になる恐れがある。その西田は宗教2世が抱える葛藤について次のようなことを言った。

 これまで信教の自由や親の教育権に阻まれ議論が深まらなかったと指摘した上で、「社会全体の問題として、福祉的に支援する。場合によっては虐待的観点に立つこともある」と、虐待被害児として宗教2世を保護することの必要性に言及した。つまり、宗教に対する社会の介入である。番組はやはりそれを言いたいのだ。

◆社会の無理解も問題

 親子の対話による解決を促す環境を整えるなど、宗教の側にも課題があると思う。しかし、社会の問題を言うなら、それは宗教への無理解ではないか。神が人間を創造したとする聖書の教えと違う進化論を否定するクリスチャンが少なくない米国では、家庭で子供を教育する「ホームスクール」が一定の条件下で公認されている。保護者がダーウィン説を教える学校教育を拒否するからだ。

 宗教についての社会の無理解が、宗教2世の苦悩を大きくしているという視点を欠くところにNHKの宗教理解の浅さが現れている。(敬称略)

 (森田清策)