萩本欽一さんの“地方移住先駆け”の泣けるエピソードを載せた文春
◆神奈川県二宮に移住
政府が進める東京一極集中を解消するための地方移住促進。そのPRに移住者の体験談に勝るものはないだろう。コメディアンの萩本欽一さんの連載「欽ちゃん79歳の人生どこまでやるの!?」の「第19回 息子たちが見ていたスミちゃんの背中」(週刊文春2月18日号)はそれ。長年連れそった奥さまの「澄子さん」が昨年亡くなった。その「スミちゃん」をしのんで、年明けに神奈川県二宮町にある長男の家に、萩本さんと3人の息子たちが集まって親子が行った懐旧談だ。
「引っ越したのは次男が生まれてすぐの頃」というから、40年以上前。「東京の暮らしにうんざりしていたスミちゃんの希望は、『とにかく遠くの静かなところに行きたい』というもの」。最初は富士山に近い河口湖の森の中に物件を見に行ったが、あまりに静かな山の中で「町の明かりが見えないと怖い」というので、次に訪ねたのが神奈川県の二宮町。「海と町の灯りが遠くに見えたから、彼女もすぐに気に入ってくれ」て移った。
ところが、坂を上り下りする家だったから転校先の小学校に行った長男は、帰ってくるとへたばって、「誰だ、こんなところに引っ越そうと言ったのは」とぼやいた。その後、どうなったかは書かれてないが、長男は二宮町に現在も居住なのだから、この地が気に入っているのは間違いなかろう。
また次男が小学校時代、「担任の先生がとても厳しい」ということで、一度だけ登校拒否をしたことがあり、「スミちゃん」が学校に電話してくれた。次男はその時「てっきり『あまり厳しくしないでください』と言ってくれるんだと思ったら、母ちゃんは『これからもいつも通り、どんどん厳しくしてください』と言ったんだ。最後の味方だと思っていた母ちゃんにそう言われたら、もう仕方ないと観念したよ」と。「次男は次の日から学校に行くようになった」。家と子供を守る奥さまの知恵と勇気。楽しいわが家、住めば都だ。
◆鳥取県知事の「英断」
「子どものためなら引っ越すからです」と言うのは、「大都会のメリットを感じなくなった」と題し、自県が行う移住定住政策を紹介している平井伸治・鳥取県知事(サンデー毎日2月7日号)。
「医療費補助、少人数学級、それから中山間地の保育料無料など」のPR効果が出て、「16年以降毎年、2000人を超える移住者の半分以上はこの若い世帯」つまり子育て世代が同県に移住した。しかもブランド総合研究所の都道府県生活満足度で鳥取県が5位に躍進した。「一番大切なのは命で、愛する家族の健康や安全を守ることを第一に考えるようになったからです」と平井知事自身、その成果を分析し胸を張る。
東京を出て地方に移住する家族の例を挙げた記事を、ここ数年、週刊誌で見掛けるようになったので昨年、当欄でも一度取り上げた。その時少し触れたが家族単位で移住した場合、教育の問題がずっと付きまとう。若い夫婦の場合、鳥取県のように「保育料無料」などはありがたく効き目がある。ただ、地方への移住促進を定着させるには、中央との教育格差を縮めることなどの中長期策を打ち出すことが必要。週刊誌上でも踏み込んだ議論を待ちたい。
◆受験戦争を煽る記事
アエラ2月1日号で「中学受験の前後に親が子どもにかける言葉 『素晴らしい挑戦』伝えて」というタイトルの記事が出ている。「中学受験前後に親が気をつけるべき声かけ」の好例を五つに分けて掲載。「中学受験大手の塾に通塾し、女子御三家を目指していたが、本人が目標としていた学校は全て不合格になった」という娘さんの父親が、「親は子どもの気持ちに共感しつつも、淡々とすることが大事です。(後略)」などとアドバイスしている。
コロナ禍にあって関係者には大切な情報かもしれないが、あいかわらず東京を頂点とした子供たちの受験戦争を煽(あお)る、一昔前のテーマだ。地方移住のトレンドにも逆行している。
(片上晴彦)