英国のTPP申請、各紙とも中国警戒で基準ルールの緩和厳禁を主張

◆英国参加を各紙歓迎

 「英国が加われば、TPPの経済圏は環太平洋地域を超えた広がりを持つ。/コロナ禍で世界の貿易が打撃を受けているだけに、英国の合流で自由貿易の推進を目指す意義は大きい」(産経・2日付主張)

 「認められれば、発足後初の新規加盟となり、自由貿易の枠組みがアジア太平洋の域外に広がる。保護主義の流れを反転させる効果も期待されよう」(毎日・3日付社説)

 英政府は今月1日に、日本や豪州など11カ国が参加する環太平洋連携協定(TPP)への参加を正式に申請した。加入には全ての批准国の同意が必要になる。今春から始まる英国との交渉は、来年中の参加決定を見据える。今年の議長国である日本には、英国との加盟交渉で、TPPの発効にまでこぎ着けた指導力の発揮が求められる。発足時のメンバー国以外で初めてとなる加盟が実現すれば、参加国の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合も13%から16%に高まるのである。

 英国のTPP申請については朝日を除く各紙が論調を掲載したが、各紙とも一様に歓迎している。冒頭の引用のほか日経(4日付)は「自由化の水準が高い貿易圏を、アジア太平洋地域の枠を超えて拡大できるのは喜ばしい」、日本がすでに英国とは経済連携協定(EPA)を締結していることを指摘した読売(2日付)は、両国は「自由貿易重視の理念を共有している。参加申請を歓迎したい」と肯定的である。

 その上で「英国には、すべてのルールの受け入れを求める必要がある」(読売)とする譲れない前提を示すことでも各紙は並んでいる。昨年まで、EU離脱における条件交渉で英国のタフネスぶりを目の当たりにしてきただけに、各紙はこの点でも、異口同音に念押しするのだ。

 TPPは2018年の発効前に、米国が離脱して一時、その先行きが危ぶまれた。これを日本が中心となって、粘り強い交渉で残る11カ国が踏みとどまり、発効にこぎ着けた。今回の英国の加入が成れば、加盟国拡大の呼び水としたい期待は大きいのだが問題もある。「ただ、そのためにルールを緩めることはあってはならない」(読売)、「関税自由化の水準や貿易・投資のルールなどを緩めるのでは本末転倒である。TPPの価値を損ねる結果になりかねない」(日経)などの指摘が示すように、一抹の危惧がなしとはしないからである。

◆米離脱の隙狙う中国

 もともとTPPには、これまで知的財産のルールを無視して奪取するなど経済的にも国際的な覇権を強める中国に対抗する枠組みという側面があった。「軍事、経済一体で地域覇権を追求する中国と一線を画し、自由で公正な経済圏を確立する狙いがある」(産経)のだ。その中国が米国の離脱の隙(すき)を狙ってTPPへの参加意欲を示し始めたことには警戒が必要だからだ。日本が、英国との交渉で念頭に置かなければならないのはこのことである。

 各紙は中国への警戒感でも異口同音の主張である。まず産経は「TPPには、国有企業の優遇を禁じるなど、中国には受け入れがたい規定がある。対英交渉で、基準を緩める前例を作ると、中国加盟に例外を設ける口実とされかねない」と指摘。日経も「英国との交渉であしき前例ができれば、TPPに関心を抱く中国やタイなども参加条件の緩和を迫るだろう。いずれも現行基準の受け入れという一線は譲れない」ことを強調する。

 毎日までもが「日本は申請を歓迎しているが、自由化の水準低下につながる変更を英国が求めてきた場合は、応じるべきではない」とクギを刺す。「安易に妥協すれば、中国にいたずらに期待感を抱かせることにもなりかねない。中国は近年、貿易協定を通じて経済のルール構築を主導しようとする動きを強め、TPPにも秋波を送っている」ことに警戒を呼び掛ける。そして「TPPは、中国に改革を迫る枠組みとしても有効といえる」と評価する。極めて的確な主張である。

◆米の復帰促す努力も

 もう一つ各紙一致した主張は「米国にTPPへの復帰を促す努力も怠ってはならない」「あらゆる機会を通じて働きかける必要がある」(日経)ことで、これも正論だ。

(堀本和博)