米国分断を投影した「プライムニュース」における古森・デーブ論争

◆演説と矛盾する弾劾

 「赤(共和党のシンボルカラー)と青(民主党のシンボルカラー)、地方と都市部、保守主義とリベラルが戦う、この野蛮な戦争を終わらせねばならない」――バイデン米大統領の就任演説の一節だ。

 今回の大統領選挙から就任式までの過程で、日本人が目の当たりにしたのは米国社会の分断の深刻さだ。「結束」を訴えた演説はそれを象徴するものだった。

 21日放送のBSフジ「プライムニュース」(「詳報!米大統領就任式 バイデン新政権の針路 その時、トランプは?」)で、米国分断の根底にあるものを浮き彫りにするような論争が繰り広げられ興味深かった。出演は古森義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)、手嶋龍一氏(外交ジャーナリスト)、デーブ・スペクター氏(放送プロデューサー)。

 「なぜ7500万近くの人がバイデンさんでない人に投票したのか。しかも、彼らが投票したトランプはすでに(大統領任期が)終わったのに、後から追っ掛けて息の根を止めるような弾劾をバイデンさんの政党はやろうとしている。これは団結・結束に反する」と、就任演説と弾劾の矛盾を突いたのは古森氏。

 一方、これまでトランプ批判を続けてきたデーブ氏は、トランプ氏の離任式典でのスピーチに言及。「2週間前に、連邦議事堂であれだけの乱入事件が起き、それもある程度、トランプ氏による扇動によって起きたわけだから、自分を褒めるばかりではなく、反省とかもう少しシリアスであってもよかった」とした上で、「彼のスピーチは次元が低くて、繰り返しも多くて、文法もちょっと変で表現力もボキャブラリーもあまりない。バイデンのたった5分間のスピーチと比べものにならないくらいレベルが低い」とこき下ろした。

 これに対して、古森氏はすかさず反論。「トランプが言っていることが次元が低いと言うが、7500万近くの支持層の気持ちを体現している部分が大きい。だからアピールする。それを学歴が低い、頭が悪いと切って捨てることには必ず反発が起きる」と強調した。つまり、「超・上から目線」で、意見の違う人間に「変」というレッテルを貼るのは「政治的偏見」であり「みんな平等」という民主主義の原則に反するというのである。

 確かに、少数者の意見に耳を傾けることで成り立つのが民主主義だ。デーブ氏は、4年前の大統領選挙でトランプ氏が勝利した時にも、民放のバラエティー番組で「アメリカにアホが多い」と発言したが、自分の気に入らない人間だからといって「低レベル」「アホ」と、聞き耳を持たなかったら亀裂を深めるだけだ。

◆近代合理主義を過信

 二人の論争に「面白い議論だ」と分けて入ったのが手嶋氏。「日本では大きな誤解があって、トランプ大統領が出現したために米国の亀裂が深まったとみているが、そうではない。トランプ氏は亀裂の原因ではなくて、まさに米国ではここ十数年、深い亀裂が広がっていた。その結果として、特にラストベルト(錆(さ)びた地帯)、プアホワイト(白人低所得者層)という人たちの不満を鷲(わし)づかみにして出現したのがトランプ大統領」と解説した。

 地方と都市部の断裂を広げた要因には、経済格差とともに、ニューヨークやワシントンDCに多い知的エリートが体現する近代合理主義への過信がある。デーブ氏の発言にはそれが感じられる。

 また、キャスターの反町理氏(フジテレビ報道局解説委員長)がバイデン氏の就任演説についての印象を「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ=政治的に正しい表現)というか、理想論できれい事みたいな言葉が大統領のスピーチに戻ってきたな、というのが率直な感じ」と語った。リベラル派が推進するポリコレによって「メリークリスマス」も言えなくなったキリスト教徒の憤りも、保守とリベラルの亀裂を深めることになったのだろう。

◆分断、当分続く可能性

 バイデン氏は、ケネディ大統領に次いで2人目のカトリックの大統領。フランスの政治学者トクヴィルは「プロテスタンティズムは人を平等より独立に導く」と言ったが、聖職者の下で「万人は平等」と説くカトリックの大統領の政治はよりリベラルになるはず。米国の分断が当分続くことを覚悟させる番組だった。

(森田清策)