コロナ禍の日本経済が抱える課題に正面から取り組んだ読売新年社説
◆景気の二番底懸念も
仕事始め早々に、「緊急事態宣言」が検討される状況となり、政府はきょう(7日)決定する。
首都圏1都3県を中心にコロナ感染が著しく増加しているからで、医療の現場では危機的状況が伝えられる一方、「緊急事態宣言」に観光業界などからは悲鳴の声が上がり、景気の二番底を懸念する声も出てきた。
昨年の日本経済はまさに新型コロナウイルスに振り回された一年だったが、新年も予断を許さない状況が続きそうである。
そんな日本経済が抱える困難な課題に対し、政府は、また企業はどう取り組むべきか――。新年経済社説でこの問題に真正面から取り組んだのが、4日付読売「日本経済再生/構造の転換に全力で取り組め デジタルと脱炭素で投資喚起を」である。
日本経済を扱った社説には他に、4日付朝日「コロナ禍と経済格差/支え合う仕組みの再構築を」、日経「ニューノーマルに挑む/脱炭素を飛躍のチャンスにしよう」、東京「年のはじめに考える/不公平も拡大している」、5日付本紙「新年の日本経済/コロナ収束後の成長力強化を」があった。
が、課題解決への真摯(しんし)さという点で、読売が群を抜いていた。朝日や東京は左派系らしく「格差」「不公平」の問題を取り上げたが、日本経済そのものが厳しい状況に置かれている中、その打開に向けた前向きさに欠ける。特に東京は、権力=悪のステレオタイプ思考から抜け出せず、平面的で深みもない。
◆大胆な構造転換必要
読売に話を戻す。見出しの通り、同紙は「日本経済再生」がテーマで、そのためには「大胆な経済の構造転換が必要」で、「その覚悟が問われる1年となろう」とした。
景気の本格回復には、「GDP(国内総生産)の過半を占める個人消費の活性化が不可欠で、新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない中では難しい」からである。
当面は困窮者を救済する安全網―休業手当の一部を補助する雇用調整助成金の拡充や、政府系金融機関と民間金融機関の実質無利子・無担保融資による資金繰り対策など―の充実を図る。
現状、日本の失業率は欧米より低く抑えられているが、同紙はこうした施策の有効性を再点検しつつ、景気刺激策に徐々に軸足を移すことが望ましいとし、「コロナ後を見据えれば、経済の構造転換が大切である」と強調する。同感である。
その中心となるのが、菅義偉首相が政策の柱に据えているデジタル化と、温室効果ガスの排出を減らす脱炭素化である。
そのデジタル化では、昨年の給付金支給に手間取るなど行政のデジタル化の遅れが批判されたが、民間のIT化も思うように進んでいない。読売は「人材が不足しており、システム設計や情報処理などを手がける人の多くが、IT企業に集中していることが要因だ」と指摘して、デジタル人材を幅広く配置できるよう、教育・研修の仕組みを官民で再構築してもらいたい、と訴えたが、尤(もっと)もな提案である。
◆脱炭素で投資喚起を
脱炭素化では、首相が温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げたが、実現には再生可能エネルギーの利用拡大や電気自動車(EV)の普及、水素や大容量蓄電池の技術開発が不可欠で、クリアすべき課題は山積している。しかし、「裏を返せば、この分野に企業の投資を呼び込む好機でもある」というのが同紙の見方で、政府が追加経済対策で決めた脱炭素を支援する2兆円の基金を、使途を精査して効果的に活用したいという。
このように読売は具体的で建設的だった。日経は特に脱炭素に絞り、脱炭素のうねりが国際的に高まる中、「日本もひるむことなく構造転換に挑み、飛躍のチャンスにしなければならない」と叱咤(しった)激励する。新年社説はやはり、こうした前向き、建設的なものがいい。
(床井明男)