各紙が元旦紙面で中国リスクをメインに報じる中、朝日は全く触れず
◆戦間期の対応を誤る
令和3年が明けた。西暦では2021年、20年代の幕開けである。それで100年前の1920年代を思い浮かべた。英歴史家E・H・カーが「危機の20年」と呼んだ両大戦間の前期に当たる。その時代の対応を誤ったから第2次世界大戦に至った。米政治学者ジョセフ・ナイ氏はこう言っている。
「戦間期の大いなる皮肉の1つは、1920年代に西洋諸国がドイツに融和すべき時に対決姿勢をとり、1930年代にはドイツと対立すべき時に融和政策をとったことである」(『国際紛争 理論と歴史』有斐閣)
第1次大戦後、ドイツは戦勝国から途方もない賠償金を求められ塗炭の苦しみを味わった。それでナチスが台頭し、ヒトラーは侵略の牙(きば)を剥(む)いた。ところがチェンバレン英首相は融和のミュンヘン協定を締結。融和と対立の時を見誤った結果、第2次大戦に至った。ナイ氏の言う対立とは「抑止力」のことだ。
現在はドイツを中国に置き換えることができる。東西冷戦期には中ソ対立を利用する融和もあり得たが、ソ連崩壊後に転換すべきだった。天安門事件に融和で臨んだ日本や米歴代政権の対中融和策が中国を増長させ、「共産帝国」を生み出した。だから2020年代は融和でなく対立(抑止力)に腐心すべきだ。
◆「見えぬ侵略」が進行
そんな中国を元旦の新聞でメインに据えたのは読売、毎日、産経、本紙の4紙。新年の行方は「中国」を抜きに論じることはできまい。まずは順当な紙面だ。読売は1面トップで「中国『千人計画』に日本人 研究者44人を確認」と報じた。千人計画は中国共産党が世界から優秀な科学者を招聘(しょうへい)し軍事に利用する「軍民融合に関する戦略方針」(2016年7月)に基づく。それを知ってか知らでか多数の日本人学者が中国入りしているのは驚きだ。
毎日1面トップにはさらに驚かされた。「中国『闇』ワクチン流入 日本の富裕層接種」とある。「中国共産党幹部に近いコンサルタントの中国人」が新型コロナの未承認ワクチンを日本に持ち込み、日本を代表する企業経営者など一部の富裕層に接種しているという。違法接種の「秘密の共有」は脅しにも使えるスパイ工作の典型的手法だ。中国の魂胆が見え見え。これこそ「目に見えぬ侵略」だろう。
その『目に見えぬ侵略』の著作で知られる豪チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授は中国の工作を本紙に赤裸々に語っている(1、3日付)。一方、産経は12月31日付から「自由/強権 21世紀の分岐点」の連載を始めた。言わんとすることは乾正人・論説委員長の「年のはじめに」の見出しに尽きる。「中国共産党をもう助けるな」だ。
ところが、朝日はどうだろう。元旦の「天声人語」は仰天モノだ。英国の作家ジョージ・オーウェルの『動物農場』を取り上げ「ロシア革命に材を取り、スターリンの独裁政治を皮肉った寓話だが、旧ソ連を思い起こすだけではもったいない」とあるから、てっきり中国のことと思いきや、中国のチの字も出てこないのだ。
書くのは日本の政治批判。「国会で虚偽の答弁が続き、『説明できることとできないことがある』と首相が公言し、議員の訴追が相次ぐ。それでも平気の平左なのは、悲しい」。民主主義国・日本を「動物農場」になぞらえている。ここまで日本を貶(おとし)めるとは。
◆進歩的は共産・反日
元旦社説「核・気候・コロナ 文明への問いの波頭に立つ」にも中国のチの字もなかった。核にしろ、気候・コロナにしろ、中国リスクは限りなく高い。人権侵害はとどまるところを知らない。それには平気の平左なのだから、こちらの方がよほど悲しい。
そういえば、朝日新聞綱領には「評論は進歩的精神を持して」とある。戦後日本で進歩的とは「共産」「反日」と同義語だ。朝日の本質を改めて思い知る年初めである。
(増 記代司)