欧州の一貫性のない対応がリビア情勢を悪化させたとアルジャジーラ
◆対立する仏伊の利害
2011年のカダフィ政権崩壊を受けて始まったリビア内戦は10年目を迎えた。民主化運動として隣国チュニジアで始まった「アラブの春」に端を発する内戦だが、東西勢力への分断、外国勢力からの介入へとつながり、収拾のめどは立たない。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、欧州の一貫性のない介入が現在の混乱を招き、ロシアの軍事介入につながったと糾弾した。
リビアの政党「タギエール」の党首で国連による政治対話プロセスのメンバー、グマ・ガマティ氏はアルジャジーラへの投稿で、「欧州連合(EU)のリビアへの一貫しない政策が、ロシアが欧州の南の対岸で影響力を増すのを許した」と指摘した。
リビアは、欧州からは地中海を隔てた対岸にあり、リビアの混乱は欧州に大きな影響を及ぼす。産油国であり、経済的結び付きがあるだけでなく、大量の難民流出が欧州を悩ませてきた。中でも難民の影響を最も受けているのはイタリアだ。
ガマティ氏は特に、フランスとイタリアの対立が内戦の解決を困難にしていると指摘する。
両国は北大西洋条約機構(NATO)の一員としてリビアの最高指導者カダフィ大佐の追い落としに加担した。イタリアのリビアでの主要関心事は、大量の難民、原油の確保、リビア内のイタリア企業の保護だ。ところが「フランスはイタリアほど難民の影響を受けておらず、フランス政府は難民にそれほど関心がない」とガマティ氏は指摘する。フランスの主要関心事は、「テロ対策であり、過激な武装勢力が拠点を築くことを阻止すること」にあるからだ。
ここから生じる利害の対立が、「両国にリビアで違うスタンスを取らせ、リビア国内で対立する勢力を支援させている」とガマティ氏は指摘する。
リビア国内は現在、西部の国連主導の暫定政府「国民合意政府(GNA)」、東部の元国軍将校ハリファ・ハフタル氏率いるリビア国民軍(LNA)に二分されている。
イタリアなど大部分のEU、NATO加盟国はGNAを支援、フランスはLNAを支援している。アラブ首長国連邦(UAE)もフランスと共にLNAを支援、直接的な軍事介入を行っている。UAEは国内に仏軍基地を受け入れるだけでなく、フランスにとっては仏製兵器の第二の得意先。両国の軍事的つながりは強い。GNAを支援し、シリアや地中海などで影響力を拡大するトルコとの対抗という面もそこにはある。
◆関与を深めるロシア
ガマティ氏はさらに、「欧州の分裂が、ロシアがリビアで主要なプレーヤーになる隙を生んだ」と指摘する。
ガマティ氏によるとロシアのリビアでの狙いは、「カダフィ型の独裁体制」の復活。カダフィ体制の崩壊で失ったリビアでの経済的、戦略的利益を取り戻すことを狙っている。
カダフィ大佐は2008年にロシアを訪問し、兵器、鉄道、原油・ガス探査で100億㌦規模の交渉を開始していたが、内戦により合意は宙に浮いたままで、ガマティ氏は「ロシアはこれらの合意を復活させ、恐らくハフタル氏に引き継がせようとしている」と指摘する。
ロシアは内戦介入のため、民兵を送り込み、戦闘機を派遣していることが明らかになっている。さらにロシアは停戦交渉を主宰するなど「リビアの未来はロシアの関与抜きでは描けない」ほどだ。
◆影が薄い米国の存在
一方、NATOの一角、米国のリビアでの影は薄い。政権内でのスタンスも曖昧なままだ。ガマティ氏は「地中海でのロシアの軍事プレゼンスは、NATOにとって直接の脅威であり、米次期政権はリビアへの関与を復活させるはずだ」と予測する。
(本田隆文)