増える新型コロナ感染者と生活困窮者の解決を模索する「日曜討論」

◆有事となる医療現場

 年末を迎え、今年1年を振り返って最大の話題は新型コロナウイルス感染であり、感染者は寒さの中でまた増加の一途をたどっている。欧米でワクチン接種が始まり、明るさを取り戻すかに見えたが、今度は英国で感染力の強い新型コロナ変異種の感染拡大が確認され、既に世界各地で流行しているようだ。

 こうなるとテレビの報道番組は年末も新型コロナで占められ、来年もしばらく続くだろう。医療崩壊の危機が叫ばれ、社会的にも影響が大きいが、NHK「日曜討論」は6日、13日、20日と連続して新型コロナをテーマにする議論が続いた。

 20日放送では、新たな緊急事態宣言発令の可能性について日本感染症学会理事長の舘田一博氏は、入院患者が急増して医療崩壊が起きそうな状態になった場合には「緊急事態宣言を含めて声を上げていかなければならないと思う」と述べた。

 緊急事態宣言の再発令の可能性はある。しかし緊急事態宣言に対して国民には建前と本音があるかもしれない。世論調査などで問われれば支持も少なからぬ割合を占めるが、その中でも心から求めているとは思えない。

 実際、番組でも今年の感染推移のグラフが示されたが、春に緊急事態宣言が発令された時期よりも夏以降から現在までの感染者数はおよそ2倍、3倍と増えている。だが、緊急事態宣言を発令しないで済ませてきた。

 番組に出演した医療従事者からは、発症しない感染者から感染する新型コロナの難しさや、増加する患者を受け入れる医療現場の厳しい状況が報告された。これを慶應大学教授の小熊英二氏は、「制度設計的に無理があるものを現場の頑張りによって支えられている」と評した。平時の現場の頑張りで無理があるなら、やはり緊急事態宣言が発令されたほどの「有事」であり、他国の例では軍が野戦病院をスタジアムに設置したように、感染症対処の有事法制の検討も必要だろう。

◆防止策と経済の矛盾

 一方、コロナ禍では生活への打撃が大きい。豊中市社会福祉協議会コミュニティーソーシャルワーカーの勝部麗子氏は、「多くの方々が飛び込みで相談に来ている」と述べた。仕事を失い減収した人々に貸与する緊急小口資金の相談、生活費用3カ月分の総合支援金の相談、その延長、再延長の相談が多くなり、中には家を失った人、ボーナスが支給されずボーナス返済を組み込んだローンの返済が滞った人など具体例を挙げた。

 再び緊急事態宣言を発令すれば間違いなく困窮者はさらに増える。また事業者への支援策が仇(あだ)となったのが、中止になった「Go To トラベル」だが、「Go To」で秋に大勢が観光地に向かったのは、日常を取り戻したい国民の素直な気持ちであることは否めない。

 しかし感染防止策に対しては正反対の施策と批判され、政府も中止せざるを得なかった。感染防止対策と経済活動の矛盾について、三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏は、人が動く経済活動と感染者数を横軸縦軸の比例に例え、新型コロナのパンデミックに感染対策と経済対策を両立するには、「データが不十分、結果として泥縄になる」と心もとない。が、欧米諸国も感染の波ごとに規制と緩和の繰り返しで、似たり寄ったりだ。

◆解決模索し進む変容

 同番組のような専門家による議論でも、問題や課題は多く提起されるが、決め手が見つからない未曽有の事態だ。

 が、出席者からは次の感染症も必ず来ると考え、感染症に強い社会をつくること、都市部に感染が広がっており一極集中から地方分散を促す意見、独り親の失業など働き手がいない家庭への社会保障、ネットの仮想空間が増幅し経済価値を高めたことによるイノベーションの方向などが提起された。さまざまな変容を伴いながら解決策の模索は、新年も最重要課題になるだろう。

(窪田伸雄)