来年度予算案に各紙社説は「膨張」「たが外れ」「野放図」など批判の連呼
◆コロナ禍で予算膨張
22日付読売「借金頼みの財政膨張は危うい」、朝日「財政規律のたが外れた」、毎日「コロナに乗じた野放図さ」、産経「財政悪化の現実忘れるな」、日経「財政規律の緩みを隠せぬ来年度予算案」、東京「膨張し過ぎではないか」、23日付本紙「コロナ克服と経済に万全期せ」――。
菅義偉政権が21日に閣議決定した来年度予算案に対する各紙社説の見出しである。本紙を除き、保守系紙も左派系紙も批判のオンパレードで、予算案に関する社説がこのように、そろって厳しく批判した例は、筆者の記憶にない。
批判の元は見出しの通り、「予算の膨張」(読売)で、朝日は「たがが外れた」とまで言い切り辛辣(しんらつ)に批判した。
来年度予算案は一般会計総額が106・6兆円で当初予算段階で9年連続の過去最大更新となったが、このうち5兆円はコロナ対策の予備費。この予備費を除けば、今年度当初から1兆円ほど減る。
朝日は、総額が抑えられたように見えるのは、「15カ月予算」の考えの下で一体編成した今年度3次補正に、額がかさむ目玉事業をことごとく押し込んだからだとし、また、3次補正を加えた実質的な来年度予算は、同じく15カ月予算だった今年度より16兆円も多い、と批判した。
尤(もっと)も、この15カ月予算の比較は批判の理由にはならない。コロナ禍で今年度に入ってから緊急事態宣言が発令され、さまざまなコロナ対策費が講じられたが、感染が長引いているため、追加の対策費を計上せざるを得なかったわけである。今年度1次補正や2次補正を含まぬ「19年度補正と今年度当初予算の15カ月予算」より、「今年度3次補正と来年度予算の15カ月予算」が大きくなるのは当然である。
◆不要不急の判断困難
だからか、朝日は感染防止対策や失業防止のための休業支援など理解できるとし、「問題は、コロナ禍と関係が薄い事業まで続々と、どさくさに紛れて盛り込んだことだ」とした。同様に毎日は「不要不急の事業を洗い出し、大胆に削る必要があったのに、政府はほとんど手を付けなかった」「むしろコロナ禍による景気悪化に乗じて規模を拡大したのが実態だ」とした。
毎日はその例に、公共事業の手厚い配分や社会保障費での制度見直しの不十分な対応、巨額の予備費などを挙げた。「背景には、来年秋までに行われる衆院選をにらんだ与党の歳出拡大要求がある」という。
これらの指摘には一理あるものもあるが、地震や豪雨、台風など自然災害により被害が甚大化する傾向にある中、例えば、地震リスクの低かった熊本で大きな地震災害に見舞われるなど、何を基準に「不要不急」の事業判断ができるか難しい事例が少なくない。
産経が見出しのように強調した背景には、コロナ禍が収束した後の財政のありようについて全く道筋を描けていないことがあり、それを「看過できない」とし、日経も同様に、「当面の予算措置で一定の規律を守るだけでなく、コロナ後を見据えた本格的な歳入・歳出改革の議論も始めるべきだ」と指摘した。
重要な指摘だが、目下、感染拡大防止と経済の両立に全力で取り組んでいる最中である。そうした対応に臨むには余裕に乏しかったのか、あるいは批判は承知の上で、コロナ対策と経済の両立に「全集中」で取り組む決意を示したのか、どちらかであろう。
◆成長があっての経済
予算案はグリーン化やデジタル化の促進、脱炭素社会の実現を促す取り組みを盛り込んだ。読売や日経、本紙などが評価、「コロナ禍の克服と成長基盤の強化に焦点を当て」(日経)ているわけで、「成長あっての経済、経済あっての財政」の考え方である。
産経は「これだけの予算をつぎ込むのである。菅義偉政権は、感染拡大の阻止はもちろん、経済再生を成し遂げることに重大な責任を負うことを厳しく認識してほしい」と強調したが、認識しているからこその今回の予算案と言えまいか。
(床井明男)