夫婦別姓問題で結婚・離婚繰り返す事実婚カップル登場させた日テレ

◆控除狙い“偽装結婚”

 当初案に入っていた「選択的夫婦別氏(姓)」の文言を削除した第5次男女共同参画基本計画案を、自民党が了承したのを受けて放送(18日)した日本テレビ「news every」。別姓導入に賛成する割合が7割に上ったという、推進派の大学教授らが行った世論調査を紹介しながら、「当初の政府案から大幅後退」と、自民党の姿勢には批判基調だったが、それは想定内で驚かない。

 だが、番組の見識を疑ってしまったのは、登場させた「事実婚」カップルだ。婚姻届けを出さないのは別姓を続けるためで、それは「対等な関係でいる」ためだという。それだけでも、違和感を持ったが、同じカップルで今年の年末に結婚届けを出し、来年の年始にはもう離婚するのだというのだから、目が点になってしまった。

 なぜそんな非常識なことを行うかといえば、事実婚では扶養控除が受けられないからで、年末だけ一時的に「結婚」すれば、医療費控除などで「年間10万円くらい」が浮く計算になる。

 しかも、今回が初めてではなく、4回目の結婚と離婚なのだという。これは偽装結婚とどう違うのか。

 「対等な関係でありたい」として事実婚を続けながら、配偶者控除はしっかり求めるというのだからあまりに身勝手な話である。さらに、呆(あき)れたのは、「結婚届けや離婚届をいったいなんだと思っているのか」と突っ込みを入れないで、当人たちの言い分だけを放送したテレビ局側の姿勢だ。

 まるで、このようなカップルが存在するのは、日本が選択的夫婦別姓を導入していないからだ、と言わんばかりだったが、家計のため結婚・離婚を繰り返していることを堂々と打ち明けるカップルがテレビに出るようでは、事実婚でもないのに、それをまねる不届きな男女も出てこよう。だから、筆者などは、そんな結婚制度の悪用を許してなるものか、同じカップルで結婚・離婚を何度も繰り返せないように、法改正した方がいいと思わずにおれなかった。

◆「姓」は「家族の呼称」

 しかも、番組は「姓とは何か」という、本質的な問題にはまったく触れずじまいだった。「7割の国民は、選択的夫婦別姓を容認している」と、自民党の賛成派議員が語るのを映し出していたが、確かに「自分は夫婦同姓を選ぶが、別姓を選ぶことを認めてもいい」「別姓が嫌なら同姓を選べばいい」と考える人は少なくない。しかし、同姓か別姓かという問題は「個人の選択」に任せればいいなどという単純な話ではない。

 2015年、夫婦同姓を「合憲」との判断を下した最高裁は「家族の一員であることを対外的に示し子も両親と同じ姓である仕組みに意義がある」と強調した。つまり、現在、日本人が持っている姓は「家族の呼称」である。裏を返せば、選択的であっても夫婦別姓を認めることは家族の姓を持たない家族を認めることである。

 それはすなわち、姓の意義を「個人の呼称」に変えてしまうと同時に、現在、夫婦を単位につくられている戸籍制度を個人単位に変えることでもある。言葉を換えれば、家族単位から個人単位へと、社会を大きく変質させてしまうことなのだ。果たして、賛成派はこのことを理解しているのだろうか。

◆子供を使い印象操作

 一方、別姓を原則とする国の中には、個人の選択を認めるというよりも「血統」つまり血縁家族を重視する文化を背景に採用している場合がある。そこでは、別姓は個人を血統に従属させる意義があるから、そこに不自由を感じる人間が出てこよう。そんな人は、血統よりも夫婦の一体性を重視する同姓の方がいいと考えるかもしれない。

 番組は最後に「ママとパパが名前そのままがいいんだから、いいと思う」という事実婚カップルの娘(9歳)のコメントを伝えたが、かわいらしい子供の話を最後に放送したのは、社会の根本に関わる重大な問題を「別姓でも仲の良いの夫婦になれる」と、問題を矮小(わいしょう)化し、賛成派を増やそうという、番組による印象操作に違いない。一般視聴者でも番組の影響を受けてもらっては困るが、国会議員ともなれば、この子供と同じ認識ではなお困るのである。

(森田清策)