75歳医療負担、各紙「前進」と評価も消費税引き上げ検討を求めた読売

◆本格的改革の第一歩

 75歳以上の後期高齢者が病院などに支払う窓口負担について、一定以上の所得のある人を対象に現行の1割負担から2割に増やす改革案がまとまった。政府の全世代型社会保障検討会議(議長・菅首相)の最終報告で、この方針などを盛り込み今後の医療改革などの方向性を示した(15日に閣議決定)。最終報告は「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、切れ目なく全ての世代を対象とする」と明記している。

 窓口負担の2割への引き上げの対象となるのは、年収200万円以上(単身世帯の場合)の人で、対象となるのは約370万人。2022年度後半から実施されると、現役世代の負担が年700億~800億円ほど軽減されることになる。

 高齢者医療負担の改革に対しては各紙(論調)とも「持続可能な制度への第一歩だ」(読売12日付・見出し)、「本格的な改革の一歩に」(朝日・同)などと改革のスタートだと評価する。その中で日経(15日付・同)は「高齢者医療の負担改革に終止符を打つな」と、改革はこれで終わりではないと、さらに踏み込んだ主張をしているのが目を引く。

 75歳以上の医療に注がれる給付費のうちの9割が現役世代と国からの支出などで賄われている。それが人口の多い団塊の世代(1947~49年生まれ)が75歳以上となる2022年には「医療費がさらに増えると見込まれる。高齢者も応分の負担をせざるを得ない」(毎日10日付)状況にあるからである。

 現在、後期高齢者の窓口負担は原則1割だが、現役並みの収入のある人は3割となっている。読売はそうした「年齢ではなく、支払い能力に応じて負担する制度をつくるうえで、中程度の収入の人を2割負担とする意義は大きい」と意義を認める。朝日もとりあえずは「負担増の議論に一定の結論を出したことは前進だ」とした。

◆マイナンバー活用も

 これに対し、日経は「半歩前進と言えなくもないが、後期高齢者の70%は1割負担が続く」ことに目を向ける。菅政権に「これで議論に終止符を打つのではなく、2割の対象者を広げる負担改革を続けるべき」こと、国政選挙への悪影響を気にする公明党の意向を汲(く)んで2割負担の実施を「2022年秋以降としたが、前倒しすべき」だと迫った。

 さらに、高齢世代の収入・資産格差が大きいことから「本来、窓口負担は収入・資産の多寡に応じて決めるのが理にかなう」と原則論に言及した上で、そのためにマイナンバー制度の活用を提言。「収入・資産状況を把握するためのインフラとしてマイナンバーを生かすべきだ。社会保障と税制に関する負担の公正さを高めるためにも、政権はマイナンバー制度の原点に立ち戻」るよう求めるなど、課題解決の本質に踏み込んだ提言で具体的な議論の継続を主張した。

 一方、読売、朝日、産経(11日付・主張)も今回を第一歩とし、引き続き将来を見据えた本格的な社会保障改革の構築をそれぞれ求めた。一見、単なる総論のようだが、その中には目を剥(む)くような大胆な言及もある。何より課題に、慎重かつ真摯(しんし)に向き合うことが求められよう。

 難航した今回の決着までの自民・公明与党の協議が「2割負担の対象者をどこまで広げるかという線引き議論に終始したのは残念」だとした産経は、今後に「政治に求められるのは、線引きをめぐる攻防ではなく、将来を見据えてどんな改革を講じるべきかという腰を据えた議論」を求めた。

◆限界を指摘した読売

 今回の案が行われても「25年時点で8・2兆円と見込まれる現役世代の支援金は、1100億円程度」の抑えにしかならないとした朝日は「すべての世代が安心できる社会保障制度をどう実現するのか。今回の高齢者の医療費負担の見直しを、本格的な社会保障改革の第一歩としなければならない」と結んだ。限られた財源での給付と負担の見直しに限界を指摘する読売は大胆に、長期的視点から消費税の一層の引き上げの検討に言及した。「社会保障制度を将来も安定的に運営していくためには、幅広い世代が負担する消費税率の一層の引き上げは避けられまい」と。目が覚めたのである。

(堀本和博)