夫婦別姓論議に勝手な思い込みや薄っぺらな考えで少子化を持ち出す日経
◆家族の意義を考えず
「祖先から継承してきたものを、ある世代が自分たちの勝手な思い込みや薄っぺらな考えで改変することは許されない」
夫婦別姓論議に接するたびに、英国の政治思想家エドマンド・バークの言葉が頭によぎる(『フランス革命の省察』1790年)。夫婦別姓は、家族の名(ファミリーネーム)という「祖先から継承してきたもの」を「ある世代」の「勝手な思い込みや薄っぺらな考え」で捨て去ることになりはしないか、と。
こんな疑問は日経には無縁らしい。2日付社説で「今こそ夫婦別姓の選択肢を若者に示そう」とぶち上げていた。政府が12月中旬にも決定する第5次男女共同参画基本計画案の原案に夫婦別姓が選べる制度(選択的夫婦別姓)の導入に前向きな表現が盛り込まれていたことから、自民党の党内論議が紛糾。導入派と反対派は4日の部会で攻防を繰り広げたが、日経社説はその2日前に早くも夫婦別姓の導入を唱えていたわけだ。
これに対して産経は7日付主張で「『夫婦別姓』案 家族の意義考えぬ暴論だ」と反対論を張った。他紙は取り上げていないが、朝日、毎日は別姓導入強硬派だから、そのうち産経が言うところの「暴論」が出てくるに違いない。
原案には「実家の姓が絶えることを心配して結婚に踏み切れず少子化の一因になっている」とある。日経も同様のことを言う。そういう人もいるだろうが、稀(まれ)だ。結婚しなければ、どっちみち実家の姓は絶える。別姓導入で少子化を持ち出すのは筋違いだ。
日経は2016年に韓国・中央日報と共同で少子化・日韓意識調査を実施したことがあるが、そこでは「少子化の最大の要因について、日韓両国の4人に1人が『雇用不安、経済不安』を挙げた。男性では両国で少子化原因のトップ」と報じていた(同5月30日付)。同姓が少子化の一因とする話はどこにもなかった。
そもそも韓国は夫婦別姓の国だ。儒教の影響で男性の「家」(姓)に妻を入れないための別姓だが、昨年の合計特殊出生率は0・92で史上最少の「出生率1人未満」国家となった(中央日報日本語版20年2月26日付)。別姓を導入すれば、少子化が解消されるとは、ちゃんちゃら可笑(おか)しな話で、それこそ勝手な思い込み、薄っぺらな考えだ。
◆無視できない「縦軸」
果たして国民は心底から別姓を望んでいるのか。毎日の世論調査によれば(13日付)、選択的夫婦別姓の導入賛成は49%、反対は24%だが、夫婦別姓が認められた場合、同姓を選ぶは64%で、別姓の14%を圧倒している。これまでの世論調査でも別姓選択は1割強にすぎない。この数字はほとんど変化がない。積極的別姓導入派は多数派ではない。
毎日の世論調査はこの2問だけだが、これでは本当の民意は測れない。17年度の内閣府世論調査では問いはもっと多くあり、「旧姓をどこでも使えるように法改正してもよい」の回答と、「夫婦は同じ姓を名乗るべきだ」の回答は合わせて53%で、通称使用を含む同姓であるべきだという意見が多かった(夫婦別姓導入賛成は42%)。別姓は子供にとって好ましくない影響があるという回答も62%あった(山谷えり子・元拉致問題担当相=毎日11日付)。
子供の存在を無視して夫婦の在り方だけを問う別姓世論調査では正しい世論は汲(く)み取れない。姓(家族)は横軸の夫婦だけでなく、祖父母や子孫という縦軸を伴っているからだ。それにもかかわらず横軸だけを見るのは、薄っぺらな考えだ。別姓導入派による巧妙な世論誘導と言っていい。
◆旧姓通称使用が妥当
山谷氏は「家族が不安定化するリスク」を挙げ、「旧姓の通称使用拡大が賢明なやり方ではないか」と言う。祖先から継承してきたものを貴ぶ、まっとうな考えだと思う。バークの前掲書は後世の人々から「思想的霊感の源泉」と呼ばれたが、そんな「霊感」を左派紙に期待するのはどだい無理な話か。
(増 記代司)