実の親と暮らせぬ子供9割が施設入所の異常さを提起した「クロ現」
◆日テレに高まる批判
日本テレビ系列で放送中の「明日、ママがいない」に批判が高まっている。親による虐待、貧困、望まない妊娠などの理由から、実の親と暮らすことができない子供たちが入所する児童養護施設がドラマの舞台。
「赤ちゃんポスト」に預けられた主人公に「ポスト」のあだ名が付いたり、施設長が「お前たちはペットショップの犬と同じ」とののしる場面があったりしたことから、施設で暮らす子供たちの心が傷つくだけでなく、社会の偏見を助長するとして、抗議の声が出ているのだ。
これらの抗議にもかかわらず日テレ側は放送中止も謝罪もしないと居直っている。視聴率稼ぎのための演出なのだろう。批判が出ていることさえも、視聴率アップにつながるとほくそ笑んでいる関係者がいるかもしれない。
偏見や差別を助長しかねない内容は改善すべきである。その一方で、施設で暮らす子供たちが外国に比べ非常に多い上に、そうした子供たちに対して、日本の社会が温かい眼差しを向けているとは言い難い実態があることに、視聴者の関心が向けば、このドラマにも意義はあるというものだが、それも淡い期待に終わるのがいつものパターンだ。
◆欧米は家庭で育てる
そんなことを思ったのは、今月15日放送のNHK総合「クローズアップ現代」を見たからだ。「“親子”になりたいのに… ~里親・養子縁組の壁~」と題した番組で、キャスターの国谷裕子さんが次のような日本の現実を提示した。
日本では、何らかの理由で実の親と暮らすことができない子供の9割が乳児院、児童養護施設などの施設で育てられている。それに対して、欧米では、その7割から9割が施設ではなく里親など一般家庭で暮らしているというのだ。
そして、「日本は国連から繰り返し、改善を求められてきた。子供にとって、自分のことをしっかりと見てくれる大人から1対1で愛情を注がれることは心の安定にとって効果が高いと言われ、将来、人との信頼関係を築く上で非常に重要」と強調した。
安定した生活環境の中で、特定の大人の愛情を受けて育つことが、子供の人格形成にとって重要であることは議論の余地はない。このため、政府は3年前、子供は施設よりも家庭で養育するという原則を示したが、それが進まず、現在施設で暮らす子供の数は3万人を超えている。
筆者はワシントン特派員時代、気分転換によくスミソニアン博物館巡りをしたが、そこで出会う見学者の中には、子供と夫婦で10人にもなる大家族、そうかと思えば、肌の色が違う子供を連れる夫婦がおり、養子や里子を育てる家庭が多いことに驚かされたものだ。
中には、自分の生んだ子供がいても、国内外から養子を迎える夫婦もいる。前述したように、親と養子で人種が違うケースもあるが、そんなことはまったく気にしない。キリスト教文化の影響なのだろう。
わが国には、生みの親が育てられない乳幼児を「実子」として育てる特別養子縁組制度があるが、その数は年間400件程度。養子縁組が年間10万件を超える米国とは比較にならない少なさである。
わが国で施設で暮らす子供が多い要因はいくつかある。「クローズアップ現代」は、里親委託や養子縁組のいずれにも実の親の同意が必要なこと、施設の子供と養子縁組を望む家庭の橋渡しをする児童相談所の職員が、急増する児童虐待への対応に追われるなど、制度や体制に問題があることを指摘した。
◆養子の選択肢に目を
一方、番組は説明会を開いて里親を増やす努力をする大分県や、赤ちゃんを施設に入れないで生まれてすぐ養子縁組を進めている愛知県の試みを紹介していた。しかし、養子縁組が進まない最も大きな要因は、日本人の意識が壁になっていることではないか。
番組の冒頭、養子縁組により“親子”となる赤ちゃんを抱っこする女性の姿を映し出していた。晩婚化によって不妊に悩む夫婦が増えているのだから、特別養子縁組によって「実子」を得るという選択肢があることに目を向けさせる視点をもっと強く打ち出してほしかった。
(森田清策)