再編へ“最後通牒”を突き付けられた地銀を特集する東洋経済など

◆生き残りへ統合・合併

 銀行は人の体に例えると、「心臓」の役割を果たすといわれる。人や企業、自治体にお金(血液)をスムーズに流し、社会全体を正常に維持していく。とりわけ、地方を拠点に金融活動を行う地方銀行(地銀)は、地方経済の中核を担っているといっていい。ところが、その地銀が今、大きな岐路に立たされている。

 そんな地銀に対して経済誌が特集を組んだ。一つは週刊東洋経済11月28日号の「地銀 最終局面 首相が追い込む崖っぷち」、もう一つは週刊ダイヤモンド(同21日号)の「銀行再編の黒幕」である。

 ところで、銀行の歴史は都銀、地銀を問わず再編の歴史であった。都銀は世界のメガバンクを目指すべく合併・再編を繰り返してきた。一方、地銀もまた2000年以降、合併や経営統合を進めている。その背景には地方の人口減少と地域経済の衰退がある。

 例えば、北海道を例に挙げれば、1997年に経営破綻を起こした北海道拓殖銀行を引き受けた北洋銀行が2001年1月に札幌銀行と経営統合し、08年10月に北洋銀行が札幌銀行と合併。一方、同じ地銀でライバル行の北海道銀行は04年9月に北陸銀行と経営統合を果たしている。このように全国各地の地銀は生き残りを図るための統合・合併を進めてきた。

◆政府の主導で優遇策

 そうした中で今回、両誌が地銀の再編を叫ぶのは、見出しにもあるように菅義偉首相の「ひと声・思惑」が大きく働いているというのである。「遅々として進まなかった地銀再編。だが、菅義偉首相が突きつけた“最後通牒”は衝撃的なものだった」(東洋経済)と言うように、菅首相は自民党総裁選の時、「地銀の数は多過ぎる。再編も一つの選択肢」と言い切った。

 それが具体的な動きとなって表れたのが11月10日の日銀による「地域金融強化のための特別当座預金制度」の発表。これは地銀や信金・信組など地域金融を対象としたもので、経費削減など一定の経営基盤の強化を実現するか、あるいは経営統合などで経営基盤を強化すれば、日銀への当座預金に年0・1%の上乗せ金利を付けるというもの。22年度までの時限的な制度だ。さらに同月27日には地域内の地銀の統合には独占禁止法の適用を除外する特例法案が施行された。いよいよ政府主導の地銀を含めた地域金融機関の再編策が始まったと経済誌は見ているわけである。

 確かに、わが国の地銀の実情を見ると、楽観できない状況にはなっている。これまでも地銀は多過ぎるという指摘はあった。地銀は11月15日時点で第2地銀を含めて101行ある。この中で東京証券取引所に上場している地銀の6割が今年9月の決算で赤字を計上した。要因としては、預金と融資の金利差である利ザヤの縮小、新型コロナウイルスによって融資先企業の業績不振などだが、コロナ収束が見通せない中、銀行にとっては予断を許さない状況となっている。

◆竹中氏またも強硬論

 そうした中で、ダイヤモンドは小泉純一郎総理時代の金融担当大臣だった竹中平蔵氏を登場させ、地銀再編を鼓舞させている。「この十数年間、地銀改革を進めなかったツケを払わなければならない。何もしないで生き残ったことの象徴が『(菅首相のいう)数が多過ぎる』という言葉に表れている」と指摘、さらに「銀行は預金を集めてそれを貸し出し、そして債権を回収するというビジネスモデル。しかしこれからは金融機能のアンバンドリング(分解)が必要になる」と述べる。

 銀行の再編についても「地銀同士が何もしないで合併しても強くならない。やはり新しい業態との連携をしていかないと、弱い者同士が普通にくっつくだけでは弱いものに変わりない」とまくし立てる。地銀という業態をなくした新しい金融システムの構築もあるというのである。

 地銀再編に関しても相変わらずの破壊・分解の強硬論者だが、かつて竹中氏が金融担当大臣時代に行った不良債権処理を加速する金融プログラムによって銀行の企業への貸し渋りや貸し剥(は)がしが頻繁化し、日本経済が混乱したのも事実。銀行は人間の体で言えば心臓に当たる。再編・立て直しには緻密な対処も望まれる。

(湯朝 肇)