エチオピア内戦危機、連邦崩壊の可能性を指摘するエジプト・サイト

◆脆弱な民族支配体制

 アフリカ東部エチオピアで北部ティグレ州をめぐる内紛が起き、死者は数千に達するのではないかと伝えられている。

 連邦政府は、少数派ティグレの反乱勢力を完全に制圧したと発表したものの、ティグレ人民解放戦線(TPLF)は抵抗を続けるとしており、国内の混乱が続くのは必至とみられている。

 エチオピアは人口1億人を超えるアフリカの大国。周辺諸国にとっては貴重な水源ともなっており、ナイル川上流に建設中の「大エチオピア・ルネサンスダム」の動向は、下流のスーダン、エジプトにとっては死活問題だ。

 エジプトのニュースサイト「デイリー・ニュース・エジプト」に寄稿した論文「エチオピアと内戦」で、カイロのヘルワン大学教授のハテム・サディク氏は、「問題は非常に複雑で、予測できない」とした上で、「連邦制を廃止し、地域を別々にすべきだと主張する専門家もいる。つまり、幾つかの国に分かれるということだ」と事態の深刻さを指摘している。

 エチオピアは、他の多くのアフリカ諸国と同様、多民族国家。権力や利益のバランスが崩れれば、内紛に陥りやすく、今回の内紛も、多数派のオロモと少数派ティグレの間にたまっていた不公平感が噴出したものとみられ、修復には時間がかかりそうだ。本格的内戦ともなれば、大国だけに、難民流出など周辺諸国への影響も大きい。

 サディク氏は、「エチオピアの政権は、依然として民族支配体制であり、そのためかつてないほど脆(もろ)くなっている。何十年にもわたって蓄積されてきた政治危機の歴史が、このような事態につながった」と指摘している。

◆話し合いの文化崩壊

 さらに、国内の民族が周辺国にまで広がっていることも懸念材料という。

 サディク氏によると、ティグレは最近、オロモの一部、国内のソマリ、アファル地域との連携に取り掛かっており、「(オロモの)アビー首相に抵抗する戦線の構築の試みであり、ティグレは、首相がティグレを犠牲に新たな独裁体制を確立しようとしていると考えている」と警告している。

 通信が遮断され現地の情勢がつかめないことも気掛かりだ。

 デイリー・ニュース・エジプトによると、ロイター通信の取材許可が取り消され、英BBCと独ドイチェ・ウェレの取材継続に対し警告が出されたという。

 ドイチェ・ウェレは6月に「エチオピアは失敗の瀬戸際にいる」と、オロモのアビー首相率いる連邦政府とティグレとの間の対立に警告を発していた。その対立の火に、総選挙の延期が油を注いだ。新型コロナウイルスの感染拡大が延期の理由だが、ティグレが強く反発、これが、11月初めに始まった内紛の直接のきっかけとされている。

 「多民族国家の崩壊か」とした上で、「3000年にわたり築かれ、エチオピア人自身も誇りとしてきた話し合いの文化が崩壊している。政治家はSNSで罵(ののし)り合い、宗教指導者も事態を沈静化できない」と警鐘を鳴らしていた。

◆周辺国に難民流出も

 周辺国への難民の流出も気掛かりだ。米紙ワシントン・ポストによると、隣国スーダンに逃れた難民は4万人を超える。北部では、支援を必要としている人々が10万人にも上るとされている。

 ワシントン・ポストは、「アビー首相は、国内の懸案に対処すべき時に、国際的な地位ばかりにとらわれてきた」と指摘、そのため「TPLFとの相違を埋められず、不満を無視し、ついに限界的に達した」と分析している。

 TPLFに対する「戦闘終結」を宣言した連邦政府だが、今後、反政府勢力とのゲリラ戦に発展という事態も考えられ、ポストは「この地域はエリトリアに近く、紛争は地域紛争への悪循環に陥ってしまう」と警鐘を鳴らす。

(本田隆文)