王毅外相来日で「甘言に乗って融和を進めては危うい」と警告した産経
◆中国側の要請で実現
「経済協力を進めるとともに、安全保障上の懸案の解決も促さねばならない。政府は、中国との率直な対話を通じ、働きかけを強めてほしい」(読売社説11月27日付)
「中国との健全な関係づくりは、日本の針路を左右する重要な作業である。平和と繁栄を共有できる環境をめざし、率直な対話を深めていきたい」(朝日・同)
中国の王毅国務委員兼外相が先月24、25日の来日中に、菅義偉(よしひで)首相、加藤勝信官房長官、茂木敏充外相らと行った会談については、各紙が総括した。冒頭2紙のそれは、当たり障りなくまとめた典型的な論調である。王毅氏の来日は中国側の積極的な求めに日本が応じたもので、菅首相就任後、中国要人と初の対面での会談である。
中国にとっては米大統領選後、「自由で開かれたインド、太平洋」構想を構成する日、米、加、豪、印5カ国の中で、外相が今、訪問できるのは少なくとも関係が悪化していない日本しかない。「米国の政権交代を前に、日本との接近を図っておきたかったようだ。菅政権も、手堅い外交を演出したい思惑があったのだろう」(朝日)というわけだ。
だから、外相会談も「安定した日中関係の重要性を再確認した」(毎日社説26日付)ほかは「実務的な内容だった」(同)。新型コロナ禍で制限されたビジネス往来の月内再開で合意したほか、福島原発事故での日本産食品の輸入規制を撤廃する協議の加速などで一致したのである。
◆暴言に反論せぬ政府
だが、こうした合意を「率直かつ充実した内容の会談だった」と振り返る茂木氏に、産経(主張26日付)は「喜んでいる場合ではない」と噛(か)み付いた。両外相の共同記者発表で「(王毅氏が)尖閣諸島(沖縄県)周辺海域に日本漁船は入るなと言わんばかりの暴言を吐いても、日本側は総じて『笑顔』で応対した」と批判した。「首相と茂木氏は中国のさまざまな問題行動に対する日本や国際社会の怒り、懸念をもっと明確に伝え、中国に翻意と反省を促すべきだった」と指摘。さらに、茂木氏が香港の民主派議員への弾圧などに懸念を伝え、新疆ウイグル自治区の人権状況の説明を促したことにも「妥当だが、これらの内容を一層明瞭に内外に発信すべき」だと迫った。
その上で、これらの「問題が解決の方向へ進まずに安定した関係は築けない。国民の多くは中国の行動を懸念している」「甘言に乗って融和を進めては危うい」と警戒警報を発したのはもっともな主張である。
他紙にも、産経ほど舌鋒(ぜっぽう)鋭くはないが批判はある。「中国には厳格な姿勢で臨むべき問題はなお多い」として朝日も、尖閣諸島問題や香港での強権行為、新疆の人権侵害に言及し「現状は、習氏を日本国民がわだかまりなく歓迎できる環境とはいえない」「日本と周辺国への脅威を高める行為や人権侵害に対し、日本の世論は厳しい視線を注いでいる」ことを強調。読売は、記者発表での王毅氏発言を「日本の主権を侵害する一方的な主張であり、到底容認できない。関係を改善するつもりがあるのか、疑念を抱かざるを得ない」と突き放す。王毅氏は先の欧州訪問でも総スカンを食らったが、日本でもその厚かましい言動は芳しくない。かえって警戒を広げただけだと言えよう。
◆TPP参加、原則守れ
一方、日経社説(30日付)は、他紙とは異なり中国外相来日に絡んで、習近平国家主席がアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会合で唐突に明言した環太平洋連携協定(TPP)への参加検討について論じた。「アジア太平洋地域の主導権争いで優位に立ちたい」中国の思惑を見透かした上で「そもそも参加の要件を満たせるのか」と疑問視する。「知的財産権の保護や技術移転の強要禁止といったルールも厳格で」加盟のハードルは高い。日米欧が求めるこれらの構造改革を中国は「ことごとくはね返してきたではないか」と言及した上で、TPP加盟国は拡大を優先して「関税自由化の水準や貿易・投資のルールを緩めるのは本末転倒」だ指摘する。
そして、中国の参加検討は「現行基準の受け入れを条件とすべきだ。日本もその原則を曲げてはならない」と念を押したのは極めて妥当なことと言わねばなるまい。何しろ中国は国際法やルール破りをものともしないで行う国であるから。
(堀本和博)