GDP大幅増にもかかわらず今後に深い懸念・憂慮示した各紙社説
◆長期戦の覚悟必要に
2020年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は戦後最大のマイナス成長だった前期から一転、実質年率で21・4%と高い成長率となった。比較可能な1980年以降で最大の伸び率である。
大方の予想通りだったが、これを扱った新聞各紙の社説は総じて深い懸念を示し、経済再生に大きな課題があることを強調するものとなった。
各紙の見出しを掲げると次の通りである。17日付日経「『二番底』回避へ正念場はここからだ」、産経「戻り遅く楽観は許されぬ」、東京「格差の再拡大が心配だ」、18日付読売「本格的な回復にはまだ遠い」、本紙「回復力弱く長期停滞の懸念」――。朝日、毎日は論評なし。
各紙が楽観視していないのは、高成長は前期の反動にすぎず、まだ落ち込み分の「半分強」(読売など)あるいは「6割弱」(日経)しか取り戻せていないからである。
さらに、牽引(けんいん)役となった消費と輸出に今後も期待するのは、内外で新型コロナが再拡大の様相を見せているため、難しくなっている。しかも、成長率を輸出以上に押し上げたのは、日経と本紙が指摘する通り、輸入の落ち込みで、日本経済の活力の弱さを示しているのである。
日経は「コロナ禍による失地を回復するには長期戦の覚悟が必要だ」とし、社説見出し「『二番底』…」と強調したが、その通りである。
産経も、さらに感染者が増大すれば、経済活動が制限されて、再び景気が急減速する可能性も否定できない、V字回復は想定しにくい、として日経同様、「長期戦の覚悟が求められよう」とした。
◆万全な追加対策訴え
こうした懸念は他紙もほぼ同様であるが、ではそれにどう対応したらいいのか、が肝心な点になるだろう。
日経は、おのずと日本は経済正常化に向け、着実かつ周到な独自のコロナ対策が大切になる、として「ばらまきを排した効果的な公的支援はもちろん、企業の果たすべき役割が重い」と強調。
特に企業に対しては「コロナ禍を奇貨として、デジタル化や事業構造の転換を見据えたM&Aに打って出る――。そうした経営者の決意とその巧拙が日本経済の将来を左右する局面だ」としたが、経済紙の主張としては具体論に欠け、やや物足りなさが残る。
産経は景気の回復傾向は10月以降も続いているが、維持できるかどうかは感染状況次第とし、「ぎりぎりの経営を強いられてきた中小企業や個人事業主が景気の二番底に持ちこたえられず、倒産や失業が相次ぐ」事態を回避するため、菅義偉政権には追加経済対策などで備えに万全を尽くす責務があると強調。
新たな成長を実現するためには、「雇用維持を最優先としつつ、コロナ時代に即したデジタル化や働き方改革などを徹底する必要がある」と訴えた。日経より一歩踏み込んでおり、尤(もっと)もな指摘である。
◆環境分野を起爆剤に
読売は産経と同様、「政府は雇用の下支えと経済の底上げに万全を期してほしい」とし、具体的には編成中の3次補正予算案で、雇用調整助成金の上限引き上げなどの特例措置の延長を求め、また、潜在成長率の向上へ「環境分野を成長の起爆剤にできないか」などとした。
さらに首相が掲げた温室効果ガス排出量の2050年実質ゼロに向け、政府が早期に具体策を示し、企業の投資を促すべきであるとして、「官民一体で、水素利用や蓄電池などの技術革新に挑んでもらいたい」などと提案する。
これらの提案は、特に目新しいというものではないが、具体案として例示したことに意義があり、内容としても妥当であろう。
東京の「格差の再拡大」への懸念だが、確かに「最も苦境にあえいでいる人々にこそ光を当て、支援が隅々まで行き渡る包摂型の対策」は生活支援という面で一理ある。ただ、それだけでは経済の活力を維持、向上させるに乏しく、後ろ向きに過ぎよう。
(床井明男)