経済回復と温暖化防止の両立の観点から女川原発再稼働同意を論じた産経
◆国も地元への協力を
東北電力女川原子力発電所2号機(沸騰水型・出力82・5万㌔㍗)の再稼働の見通しが立った。宮城県の村井嘉浩知事がこの11日に地元同意を表明したからだ。2号機は今年2月に原子力規制委員会から、平成25年に厳格化された新規制基準による安全審査に合格している。これに加えて立地自治体の女川町、石巻市の両首長も村井知事と共に記者会見し同意を表明。すでに県議会と両市町議会は容認しており、再稼働に必要な地元手続きはこれで全て完了したことになる。
平成23(2011)年の東日本大震災以降に再稼働した原発は9基あるが、いずれも加圧水型原発で西日本に立地。女川原発は東日本にあり、震災で大事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型である。知事の再稼働同意は平成25年以降、全国で6例目となるが、被災地の原発では初めてである。
女川原発再稼働の地元同意に先んじて朝日は「再稼働の同意なぜ急ぐ」(11日付社説)のタイトルで疑義を突き付けた。「東日本大震災で被災した原発としては初の再稼働手続きである。なぜそれほど急ぐのか。疑問がぬぐえない」というのだ。
朝日が指摘するのは、万一の事故の際に住民の「避難道路の整備が課題として残っていることは、政府や東北電も認める。地元は国道バイパスの整備などを県や政府に要望しているが、予算化の見通しは立っていない」という問題。そして、2号機が実際に再稼働するのは、追加の安全対策工事が完了する2022年度になる見通しから「工事完了までの2年間に、実効性ある避難計画を作り上げるのが先決だ」と主張するのだ。
地元同意に真っ向から反対を掲げるのではなく、避難道路の整備と実効性ある避難計画作りを求めただけである。その程度のことなら、他紙も地元同意に肯定的な論調を掲げる中で課題として取り上げている。「原発周辺のリアス式海岸では、狭く曲がりくねった道路が多い。万一、事故が起きた場合、円滑に避難できるか不安に感じる住民もいるという。国は自治体と協力し、避難対策の改善を続けていくことが大切だ」と読売(12日付)は説く。日経(13日付)も「震災時の広域避難が本当に可能かを疑問視する声も多い。万が一に備え、地元や東北電任せにするのでなく、避難ルートの確保など、計画に実効性をもたせるよう国が力を貸すべきだ」と国に注文を付けた。妥当な指摘だ。エネルギー政策の大局から考え原発を推進したいのなら、国はもっと踏み込んで地元に協力し本気を示すべきである。
◆各紙、前向きに総括
真っ先に言及すべきが後になったが、各紙は今回の地元同意の意義と展望を前向きに総括した。「県議会や市町議会などの意向も踏まえ、丁寧に意見を集約したことは、評価に値しよう」と地道に着実に進めた手続きを褒めた読売は、政府に他の原発でも「安全性を確認しながら、一歩ずつ再稼働を進める」ことを求めた。本紙(14日付)は「震災で被災した原発に対する地元同意は初めてだ。原発再稼働が停滞する現状の打破につなげたい」と展望。日経は「国が原発を基幹電源として維持していく上で今回の地元同意の意義は大きい」と評価。一方で安全審査を合格しても、地元の反発で再稼働のメドが立たない東電の柏崎刈羽原発などについては「安全対策だけでなく安心と信頼をどう醸成するかが大事だ。それが女川再稼働の地元同意から得られる教訓」だと説く。それはその通りでも、震災時に避難所として開放され助けられた地元住民の東北電への信頼が厚い女川と、福島第1原発事故とその後の対応にも問題を残した東電の原発とでは条件が大きく違う。難しい課題だが、前に進むしかない。
◆原発の必要性を強調
一方、ひときわ、目を引いたのは産経(12日付)だ。地元同意を「特筆に値しよう」と高く評価。菅首相の2050年温室効果ガス排出実質ゼロ宣言に言及し「原発の再稼働が続かなければ、50年の目標どころか『パリ協定』で世界に公約している30年度時点での26%削減の達成さえもおぼつかない」と問題提起し、今回の女川の反応が、地元同意の壁で「原発の膠着(こうちゃく)状態打開への触媒となることに期待」を込めた。世界の潮流は経済の回復と地球温暖化防止の両立を目指すグリーン社会への移行とした上で「原子力発電はその実現に欠かせない」ことを強調したのだ。同感である。
(堀本和博)