リモート時代の新しいマネジメントの手法を伝授するダイヤモンド
◆感染症が歴史を左右
14世紀、ヨーロッパで発生したペスト(黒死病)や第1次世界大戦下に生じたスペイン風邪など、世界的な広がりを見せた感染症は、その後の歴史を大きく左右させるきっかけとなったことはよく知られている。ペストは西欧史の中で、中世から近世に移行する要因となり、スペイン風邪は第1次大戦の終結を早め、その後の戦勝国によるベルサイユ体制が構築されていく。
今回の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的流行)は、来るべき世界構築の要因となるのであろうか。今のところ、この問題について明確な世界システム(体制)、パラダイム(前提)を示したものは見当たらない。それでも新型コロナ以降の社会・企業のありよう、あるいは世界の在り方を論ずるものが幾つか散見される。
その例を経済誌から見ると、一つは11月7日号の週刊ダイヤモンドになるのであろう。テーマは「新しいマネジメントの教科書」。これまで企業内で日頃、対面で会議や仕事の打ち合わせを行っていたものが、新型コロナによってオンラインによる会議やリモートワークが定着してきたことで、従来のマネジメントが通用しなくなってきた。そうであれば、リモート時代にふさわしいマネジメントの手法を伝授しようと打ち出したのが同号の特集だ。「毎日会うのが当たり前でない時代、年功序列で出世するわけでもなく、そういう今だからこそ人と人とのつながりが大事」とする中にあって、いかに社員同士のコミュニケーションを高めていくか、その手法を企業の取材の中で紹介している。
◆対面の重要性を説く
例えば、今年株式公開したデザイン会社の「グッドバッチ」では、フルリモートチームづくりに関して①チームを信用して細かなルールづくりはしていない②ディレクターやマネジャー的な立場の人が全てのコミュニケーションをつなぐやり方はしない③Zoomなどで「毎日、顔を合わせる」ことは大事。クライアントを含めて、「おはよう」と声を掛け合う場を設けている(齋藤恵太・事業責任者)―といった具合。
一方、コロナ禍でテレワークが進むことによりオフィスへの固定費負担が嵩(かさ)む場合、解約すべきかについて、富士通は①ブレーンストーミンンや0JT(職場内訓練)などの若手育成、研究開発などで対面での効果を発揮②気軽に雑談できる空間③作業に集中できる快適な環境④対面もリモートも垣根なく会議ができる設備―が必要との観点から対面でのコミュニケーションを残したオフィスの重要性を説く。
結論として、これまでも上司と部下、社員同士のきめ細やかなコミュニケーションが指摘されてきたが、コロナ禍でのリモートワークにおいては、クライアントを含めたつながりの強化を構築していくことが求められている。
◆小川氏の短絡的答え
ところで、もう一つ興味深い記事があったので紹介したい。週刊エコノミストに連載されている小川仁志・山口大学教授の「哲学で問題解決」(11月10日号)に載った記事。読者の質問に小川教授が答える形式だが、内容としては、「(コロナとの)戦いが長期化する中、私たちはいつ開発されるか分からないワクチンという『救いの船』を待つだけのロビンソン・クルーソーでいいのでしょうか?」という質問に対して、小川教授は「グローバル競争を前提にした今の資本主義システムを維持しようとしても共倒れになるのがオチですから。その点で『再発明されたコミュニズム(共産主義)』を訴えてきたスラヴォイ・ジジェクの考えは、今こそ傾聴に値するのかもしれません」と指摘。
さらに「難局を乗り切るためのコミュニズムという発想も非現実的なものではないと思います。…ひとまず独り勝ちをもくろむ者には『撃ち方やめ!』と、声を上げることから始めてみてはいかがでしょう」と語る。同教授が言うには、まず共産主義に耳を傾け、とりあえず声を出して行動せよ、と経済誌らしからぬ論調。あまりにも短絡的で無責任な答えではないかと思わざるを得ない。
(湯朝 肇)