大阪都構想否決もこれまでの実績評価で維新にエールを送る日経・産経

◆不足した丁寧な説明

 大阪市を廃止して四つの特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う住民投票が1日に行われ、前回(5年前)の住民投票に引き続き、僅差の反対多数で否決された。これで大阪市の政令指定都市としての存続が決まり、維新が看板政策に掲げてから10年にわたって繰り広げられた都構想自体の議論は事実上、決着となる。

 この結果について各紙(論調)2、3日付は次のように分析する。

 読売「行政の枠組みを大きく変える改革が、地域の発展にどう結びつくのか。構想は、そうした効果や将来像を十分に示せなかったと言えよう」

 日経「政令指定都市の大阪市を廃止してよいと思えるほど、都構想によって大阪が成長するとは確信を持てなかったということだろう」

 産経「賛成派と反対派の言い分は正面から対立し、都構想の長所と短所は分かりにくかった」

 朝日「市民の間には、特別区に移行した後、行政サービスはどう変わり、どれだけの負担を求められるのか、疑問と不安があった。…『説明が不十分』との声は最後まで消えなかった」

 毎日「都構想を推進してきた地域政党『大阪維新の会』は、大阪市を解体し四つの特別区に再編するメリットとデメリットを明確に示せなかった」

 本紙「市民の理解を十分に得ることはできなかった。都構想の『メリットが分からない』という声も多かった」

 要するに、PR不足なのだ。維新は都構想を実現するために、市民の不安に対応する丁寧な説明や説得、行き届いた手法において不足があったというのだ。松井一郎・大阪市長(大阪維新代表)も「私の力不足。十分に説明しきれなかった」と語る敗因とも一致するのである。

◆府と市の連携に期待

 だが、住民投票では勝ちを得ても、大阪が抱える課題は残る。産経は「反対派はこれでよしとしてはならない」と注文を付ける。「投票運動では市がなくなることへの不安を強調してきたが、ならば市を残してどうするのかという前向きな議論こそもっと必要だ」「(反対、賛成)双方がノーサイドの精神で、都構想を機に起こった改革議論を今後の大阪に生かしていくべきだ」と提案する。

 さらに産経と読売は今回も僅差の決着だったことに言及。「賛成票も相当数が投じられた。全体を見れば単なる現状維持でよいということにはなるまい。地盤沈下が言われてきた大阪を改革せよという声が強いことを、反対派も直視しなければならない」(産経)。「住民投票では、半数近くが賛成票を投じた。関西の地盤沈下が続く現状に変化を求めたのだろう。観光や飲食、中小の製造業など大阪の地場産業は、コロナ禍で大きな打撃を被っている」(読売)として、府と市に5年後に迫った大阪・関西万博を見据えこれまで以上の連携で効果的な施策を打ち出すことを求めたのは妥当である。

◆「特別自治市」提言も

 都構想は否定されても、政令市の課題は残ることで、日経が東京一極集中に歯止めをかける「大都市を強化する制度について議論を深める」ことを具体的に提案しているのは注目される。府と市の二重行政を解消する検討課題の一つの選択肢として「特別自治市」の制度創設を挙げた。「都構想とは逆に、政令市が道府県から独立し、市域での道府県の権限と税財源を一手に握る制度だ。横浜市や福岡市など志向する政令市は多い」と、制度創設の検討を求めた。興味深い提案で議論が深まることに期待したい。

 なお、今回の結果から「維新が今後、厳しい党運営を迫られることは間違いない」(読売)とみられている。だが、大阪から立ち上がった維新はへこたれまい。

 日経は「知事と市長を握り、実質的に二重行政を解消して大阪の改革を進めてきた維新の実績は評価されている」。産経は「大阪の改革への発言で気後れする必要はない。…是正のための建設的な提言を続けるべきである」と、結果は結果としても、それぞれエールを送る。同感だ。大阪から立ち上がった維新はへこたれまい。

(堀本和博)