定年延長をめぐる諸問題を特集するも地域への視点を欠いたポスト

◆死ぬまで働き続ける?

 週刊誌が中高年の読み物になって久しい。何を当たり前のことを言っているのだと言われそうだが、改めて、特集内容を見てみると、その感を強くする。特に読者ターゲットが「団塊の世代」周辺に定められているのが分かる。

 週刊ポスト(11月6・13日号)が「大特集『生涯現役』これが現実」を組んでいて目を引いた。特集冒頭の記事「定年崩壊、ならばいつまで働くべきか」とある。キオスクで思わず手に取った60すぎのご同輩も多いのではないだろうか。

 来年4月には「70歳就業法」が施行される。現在の65歳までの継続雇用制度を70歳に引き上げるか、70歳定年制の導入、定年制廃止などの仕組みを「つくる努力義務が事業主に課せられる」のだ。

 同誌によると、「日本企業の8割近くは現在も『60歳定年』制をとっている」が、これが70歳まで延長されれば、60歳とは単に「『退職金をもらって給料が下がる日』にすぎなくなる」。政府は「生涯現役社会に対応した雇用制度改革を進めていく方針で、『高齢者』の定義そのものを75歳まで引き上げる議論さえある」という。

 働けるのであれば、身に付いたスキルや経験を生かして会社や社会に貢献すればいい。だが、同誌は「それって“死ぬまで働き続ける”ことではないか」と否定的だ。「本当にそれだけが望ましい選択なのだろうか」と疑問を投げ掛ける。特集を貫く視点である。

 同じ会社にとどまった場合の例を紹介する。記事をまとめると、まず給料が減るなど待遇が悪化する。若手よりもいい仕事ができるのにだ。しかも年下の上司に使われ、結果「プライドが耐えられず辞めていく人が少なくない」のだという。確かにこれが現実だろう。

 ただ「転職でやりがいある職場をみつける」ことで新しい道を見いだした例も紹介しており、同誌は働き続けるのなら「職場を変える」ことを勧める。

◆「趣味7割」の選択も

 「仕事を辞めたら趣味に生きる」と構想を膨らませている人も多いだろう。それが実益に直結すればなおさらいい。しかし体力が衰えることも考えて「『仕事3割、ライフスタイル7割』のバランスで取り組むという選択肢もある」とアドバイスする。シルバーセンターに登録したり、ハローワークで職業訓練を受けるなど、支援の仕組みをフル活用して、現役時代に培った技術を生かすもよし、まったく違う職種や趣味と関連したもので第2の社会生活を過ごすのもいい。

 同誌は幾つかの成功例を紹介している。ところが、実際には全てがうまくいくわけでない。失敗のケースもある。これも添えておくべきだろう。こればかりは人によって、環境によって、条件によって、千差万別であることは肝に銘じておくべきだ。

 定年後は地元に戻ってボランティアや地域活動をしようと考えている人も多い。だが、「実はこんなに大変です」と同誌は警告している。何が大変か。時間が取られる、辞められない、事故が起きたら自己責任、金銭的負担、等々、「計り知れない苦労やリスクがある」と負の面を強調する。

◆進む地域社会の崩壊

 確かにそうなのだが、今や地域社会の崩壊は日に日に進んでいる。社会の在り方そのものを思い切って変える気がないのなら、今までの仕組みを維持するしかない。これまで「60歳で仕事を辞めて地域に戻ってくる人材」が大いにあてにされていた。なのに、一方でこれらの人たちを職場にとどめようとし、他方で地域社会の維持をしようというのはかなり難しい課題を地域に押し付けることになる。

 そもそも人口の減少によって、地方は地区役員、民生委員、消防団員、さらには地方公務員ですら確保が難しくなっている。これは特別な僻地(へきち)で起こっていることではなく、ドーナツ化現象で独居老人だけの“限界集落”化した街中で普通にあることなのだ。地方都市のほとんどがこの課題を抱えている。

 つまり、視点を変えれば、定年延長は人を職場に残すか地域に戻すか、という課題を突き付けていることになる。特集にこの視点はない。

 最後に「高齢者雇用継続基本給付金」など「60歳以降の選択別『必要な手続き』」という実用的なチャートがまとめてある。こういうさりげない記事は便利だ。

(岩崎 哲)