サウジのイスラエルとの国交正常化はまだ先と指摘する米タイム誌
◆国王の正統性と関係
イスラエルとペルシャ湾岸のアラブ・イスラム国家、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンが米国の仲介で国交を正常化させたことで、次はサウジアラビアかという観測がしきりに流れている。
トランプ米大統領は、サウジが続くことに期待を表明、ポンペオ国務長官も14日のファイサル外相との会談でイスラエルとの国交正常化を要請した。
ところが、サウジから前向きな反応は今のところ出ていない。アラブの大国であり、メッカ、メディナというイスラム教の第1、2の聖地を擁するサウジの動向は、中東全域に大変な影響を及ぼすことは間違いなく、慎重な対応を迫られているというところか。
米誌タイムは、「あまり期待しない方がいい」と専門家らの指摘を伝えている。
UAE、バーレーンともに1990年代からイスラエルとの経済的関係の構築を模索しており、もともとイスラエルへの敵対心は強くない。「UAEはイスラエル・パレスチナ紛争にはそれほど重要ではないが、サウジ国王の正統性には深く関わることとされている」とタイム誌は指摘している。
サウジは2002年に中東和平構想を発表、そこではパレスチナの独立などが和平の条件とされている。サルマン国王も、イスラエルとの正常化には従来の「二国家共存」という形でのパレスチナ問題の解決がなければならないとの姿勢を強調した。
エルサレムにはイスラム教の第3の聖地「ハラムシャリーフ」がある。ユダヤ教にとってここは、かつてユダヤの神殿があった最大の聖地でもあり、ユダヤ教徒とイスラム教徒の間でたびたび衝突が起きてきた。タイム誌は、ハラムシャリーフはヨルダンの管理下にあるが、「サウジ王家は、スンニ派イスラムの第3の聖地(ハラムシャリーフ)に深く関わっている」と指摘、さらに「パレスチナ独立への支持は、サウジの国家としてのアイデンティティーに深く浸透しており、イスラエルとの正常化は、他の湾岸諸国よりも非常に大きな意味を持つ」と指摘している。
◆皇太子は前向き姿勢
一方で、実権を握るムハンマド皇太子や、その支持者らは、正常化に前向きだ。サウジ政府の元顧問はタイム誌で、「皇太子、その顧問らと、それ以外のサウジの人々との間で見方は分かれており、短・中期的には難しい」との見方を示した。
サルマン国王の在任中は「トランプ氏の(サウジとイスラエルの正常化の)予言が実現する可能性はほぼない」との見方が支配的という。
だが、サウジとイスラエルとの関係が改善に向かっていることも確かで、「ここ数年間の秘密ルートでの外交は公然の秘密」、7月には、サウジの学者、実業家を含む代表団がイスラエルを訪問し、世界を驚かせた。
サウジは石油依存経済からの脱却を目指しており、その旗振り役が、ムハンマド皇太子だ。脱石油の一環として、紅海沿岸の新都市構想「NEOM」を進め、外国からの投資、観光客の誘致を目指している。イスラエルとも地理的に近く、「技術革新、海水の淡水化をリードするイスラエルは理想的なパートナー」だとタイム誌は指摘している。
◆依然強い国民の反発
ところが、アラブ諸国の国民の間で、反イスラエル感情が依然、強いという現実もある。バーレーンでは、正常化協定調印を受けて国内で大規模な抗議デモが発生した。
ニュースサイト「ミドルイースト・アイ」によると、シンクタンク、アラブ調査・政策研究センターが実施している「アラブ・オピニオン・インデックス」で、中東・北アフリカ13カ国の「60%以上が、イスラエルと米国をアラブ世界の最大の脅威と考えている」という。
タイム誌によると、サウジ国内でも、ソーシャルメディアで「正常化は裏切り」「湾岸は正常化に反対」などのハッシュタグが拡散されるなど、国民の間の反発も依然強い。
(本田隆文)