短観で雇用悪化の拍車を懸念し失業率悪化で対策訴えた読売の真摯さ
◆特例措置の延長提案
雇用環境が厳しさを増している。新型コロナウイルスの感染収束が未(いま)だ見通せず、厳しい経営環境から解雇や雇い止め、すなわち雇用契約を更新してもらえない労働者が後を絶たない。
最新の8月失業率は3・0%と2カ月連続で悪化し、解雇や雇い止めは見込みを含め6万3000人に上る。
こうした雇用情勢の悪化に対し、社説で対策を訴えたのは10日付読売「人手不足産業への転職円滑に」と11日付産経「雇用の安全網強化を急げ」の2紙。特に読売は、日銀短観(全国企業短期経済観測調査)についての論評をも掲載(7日付)し、その中で「雇用の悪化に拍車をかけかねない」状況を指摘していて、同紙の真摯(しんし)な姿勢が窺(うかが)えた。
菅義偉政権は、雇用対策中心の追加経済対策を盛り込んだ今年度第3次補正予算案を、来年1月の通常国会に提出する方向で調整に入った(本紙14日付報道など)から、読売らの論評は実にタイムリーで時宜を得たものと言える。
まず、読売の「人手不足…」は、休業手当の一部を助成する雇用調整助成金を手厚くする特例措置が、非正規労働者も対象にしていて失業の増加に歯止めをかけていると評価。ただ、政府はこの特例措置を年明け以降、段階的に縮小する方向なのだが、同紙は「雇用情勢によっては、延長を検討すべきではないか」と再考を促す。妥当な提案である。
短観の論評でも記していたが、コロナ禍の収束が見通せず、企業の業績低迷が長引けば雇用の維持が困難になる恐れがある。
このため、同紙は「今後は、仮に失業したとしても、新たな仕事を見つけやすくするための施策に力を入れることが大切である」と強調する。
確かに尤(もっと)な主張で、人手の足りない業種や成長産業への労働移動をいかに円滑に進めるかである。
同紙は現状の公共職業訓練が、建設分野の技能育成などに偏っているのは物足りないとして、「様々な業種のIT化やデジタル化に対応した講座を増やし、企業や求職者のニーズに応えてもらいたい」としたが、その通りである。
◆安全網の強化求める
産経の「雇用の…」も、雇用調整助成金の特例については、読売と同様、「再延長も含め、雇用悪化が深刻化する事態に備えねばならない」と訴える。
同紙がこのように訴えるのも、前述したように、解雇や雇い止めが6万3000人に上り、業種別では製造業に続いて飲食業でも1万人を超えるなど、雇用調整の動きが幅広い業種に広がりつつあるからである。だからこそ、特例の再延長など「雇用の安全網を強化すべき」「財源の確保も必要に応じて急がねばならない」というわけである。
短観の論評では、読売のほかに日経(2日付)と本紙(3日付)が掲載した。3紙とも景況感の悪化に歯止めはかかったものの、「改善は小幅で、企業は先行きに確信を持てずにいる。政府・日銀はコロナ禍の影響にも目配りしながら景気の回復を着実に支えてほしい」(日経)、「景気を着実な回復に導くには、国による支援の継続が不可欠だ」(読売)などと訴えた。
本紙は経常利益見通しの悪化から、内需の柱の一つである設備投資が全規模全産業で前年度比マイナスとなるなど景気回復にブレーキになりそうなことのほか、雇用面でも人手の過剰感を示す指数が大企業、中小企業の全産業で上昇しているとして「雇用環境悪化への懸念もくすぶる」と指摘していた。
◆左派系紙の論評なし
今回、失業率悪化といい短観といい、いずれも国民の生活に直接関わる問題での論評を掲載したのは、保守系紙ばかりである。左派系紙の最近の社説は、もっぱら学術会議問題や「Go To」事業での政府批判に関心が注がれている。日頃、国民の関心の高い景気や生活に関する問題は二の次のようである。
(床井明男)