携帯料金下げへの菅首相の本気度に霞む朝日の「丁寧な検証と議論」
◆読売・産経は首相支持
菅義偉首相が「デジタル庁」の設置とともに力を入れているのが、携帯料金の引き下げである。
携帯料金の引き下げは、首相就任の会見でもそうだが、就任前の自民党総裁選の最中でも強調し、官房長官の時にも取り組んでいた課題だから、その本気度がうかがえるというものである。
最近の各紙社説では、3紙が取り上げている。先月25日付朝日「丁寧な検証と議論こそ」、26日付産経「家計助ける成果をあげよ」、28日付読売「値下げへの具体策が問われる」である。
産経と読売は首相の発言を支持し、「重要なのは、大幅な値下げに導く具体策である」(読売)などと強調。一方、朝日は「現時点でさらなる『値下げ』に過度に焦点をあて、具体的な水準まで政治家が口にすることには、疑問が残る」と慎重さを求めた。
この問題では、首相が官房長官だった2018年に「4割程度下げる余地がある」と発言して以降、幾つかの対策が取られている。改正電気通信事業法が19年10月に施行され、通信料と端末代のセット販売による割り引きや解約に伴う高額な違約金が禁止された。
また高い料金の背景とされる大手3社による9割寡占という状況に対しても、4社目の大手として楽天の新規参入を促すなど市場環境の整備も進められている。
にもかかわらず、「一定の値下げはあったものの料金水準は高いまま」(産経)であり、首相の目にもそう映っているのであろう。
朝日が慎重さを求めた理由の「現時点でさらなる…」の「過度に」については疑問がないではないが、対策が取られて間がないという意味では一理あり、「まずはこれまでの政策効果を見極め、データを精査することが必要ではないか」というのも肯(うなず)ける。
また、寡占状態で世界でも高い料金で20%もの営業利益を上げ続けている、との首相の引き下げに取り組む理由についても、朝日は「携帯通信も第5世代の普及やそれ以降の開発が課題になっている」と指摘。「品質と価格のバランスや、インフラ投資と技術開発における官民の役割分担をどうするかも、考慮に入れなけれなならない」と妥当な見方を示している。
◆既に動き出した業界
もっとも、現実はそうした見方も霞(かす)むほど動きは急ピッチで、25日にKDDIの高橋誠社長が料金引き下げを検討する考えを表明。29日にはNTTがドコモの完全子会社化を発表し、経営効率化により値下げへの原資を確保しようとするなど、業界が首相の方針に沿う形で動き出している。
こうした動きが、実際に大幅な値下げとして実現するのかは定かでないが、産経、読売はこうした業界の動きを見越した形の論調になった。課題は読売が指摘するように、大幅値下げをどう実現させるか、その具体策である。
3紙とも企業努力は「不可欠」などと認めるが、それだけで大幅値下げを実現できるとはみていないようである。
総務省は近く、同じ電話番号のまま携帯電話を変更する際、元の会社に支払う手数料を原則、無料にする決まりを設ける方針だが、読売は「乗り換えを阻む要因を精査して、有効策を講じてほしい」と提案。産経は、格安スマホに契約を変更しやすい市場環境の整備への後押しや、大手による回線利用料の引き下げも重要と指摘する。いずれも、尤(もっと)もな指摘である。
◆市場の総点検求める
特に産経は、これまでの政策にもかかわらず、実感できる料金引き下げが実現していないことを問題視し、武田良太総務相に「市場を総点検し、具体的な値下げにつながる課題を洗い出してほしい」と強調したが、同感である。
読売は、大手が値下げをしない場合、首相が各社が払う電波利用料を引き上げる意向を示したことに対し、コスト増になり携帯料金を下げにくくする恐れがあるとくぎを刺したが、杞憂(きゆう)だったか。
(床井明男)