新政権に前向きな成長戦略の強化を説く読売、財政再建で朝日は安倍批判

◆財政持続で日経注文

 菅義偉新政権が誕生した。「働く」(菅氏)内閣として、新政権の今後の取り組みに期待したい。

 総裁選の期間中に経済政策に関する社説を掲載したのは、10日付読売「自民党総裁選/成長戦略をどう強化するか」、毎日「総裁選とアベノミクス/どう転換するかが焦点だ」、12日付朝日「財政健全化/成長に頼り課題先送り」、13日付日経「次期政権の軸を示す政策論議を深めよ」である。

 日経は3候補による日本記者クラブ主催の討論会を基に、各候補の主張を論評。その中で、当面の景気対策に万全を期すのは当然だが、国民の将来不安に向き合い、財政の持続性を高めていく姿勢が重要とし、「社会保障改革と国民負担のバランスに関する議論を早期に本格化する責任がある」と注文を付けた。

 ただ、同紙も認めるように、当面はコロナ禍で戦後最悪の落ち込みとなった経済の立て直しに、感染拡大防止との両立を図りながら万全を期さなければならない状況であることを思えば、この注文は少し先のことになろう。

 その点では、アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略の強化策を問う読売の方が説得力がある。「日本経済の実力を表す潜在成長率は現在、1%弱にとどまり、成長戦略の成果は乏しい。課題を再点検し、打開せねばならない」との指摘はその通りである。

 これについて、菅氏はデジタル庁の創設を、岸田氏はデータ庁の設置を唱えているが、同紙は「具体像は描き切れていない」とし、「実現への道筋を国民にわかりやすく説明すべきだ」と求めたが、これまた、同感である。

◆政策転換を叫ぶ毎日

 これに対し、アベノミクスの転換を求めたのが毎日。金融緩和や財政出動に続く「第三の矢」の成長戦略を欠いた結果、政策はコロナ以前から行き詰まっていた。国内総生産(GDP)の2倍超に膨らんだ公的債務や格差拡大など弊害は深刻化した――というのが、その理由である。

 ただ、この社説では何をもって「行き詰まっていた」のかが不明である。また公的債務が膨らんだことは事実だが、成長重視のアベノミクスだったからこそ、この程度で済んだと言えなくもない。

 後述する朝日が指摘するように、国の基礎的財政収支の赤字は、2012年度の26兆円から19年度は14兆円と半分近くに減少し、財政状況は一定程度改善しているのだが、こうした点に毎日は触れない。公的債務の拡大はアベノミクス転換の理由にはならないということである。

 また、毎日は転換を叫ぶが、アベノミクスは成長重視を貫きながらも、後半からは「働き方改革」などより分配を重視する政策に性格を変えてきていた。声高にそう問う意味があるのかどうかである。

◆2度増税でダメージ

 朝日の社説は、そのアベノミクスの財政健全化から見た批判である。

 安倍政権で財政状況が一定程度改善したと朝日が指摘したことは前述した。同紙はそれを「増税の結果」としたが、半分ウソである。消費税増税もあるが、成長重視で景気を拡大させ、所得税や法人税の税収を増加させたからである。増税だけなら、景気の悪化で所得税、法人税が減少し、トータルでは落ち込むこともあり得るのである。

 同紙はまた、「戦後2番目の景気拡大が続いたこと……も考えれば、財政健全化に取り組む姿勢は、不十分だったと言わざるを得ない」としたが、やりたくてもできなかったというのが実情であろう。

 安倍政権は2度増税を実施した。延期も2度したが、それは増税による経済へのダメージから回復を待たねばならなかったからである。

 民主党政権時代から引き継いだ財政再建目標を先送りしたのも、増税によるダメージゆえである。その目標達成のために、朝日は「抜本的な歳出削減やさらなる増税が不可避」とし、それに取り組まなかった安倍政権を批判したが、もしその通り実施していたら、どんな経済状況になっていたか。現実無視の批判は無責任にも度が過ぎよう。

(床井明男)